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祝福の鐘が、高らかに鳴り響き/H:2

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『てんちょ、もう時間だよー?』
 ドア外から明日香ちゃんが出ければならない時間を知らせてくれるが、あいにくとまだ細かい装飾品がつけ終わってない。
「ごめん、もうちょっと待って!」
 ドア外に向かって叫びながら鏡とにらめっこしていると、ため息とともにドアが開かれた。
「てんちょ、別にわたしは構わないんだけど、これ以上待たせるとまた怒られるよ?」
「こんな格好慣れてないから、時間がかかっちゃってさ」
「こんなときにまでもう……」
 明日香ちゃんが嘆くのも無理はない。人生一度あるかないか、二度以上あっても少し問題な晴れ舞台だというのに、身支度を整えるのに手間取ってちゃあまずいだろう。
「はあ、玲愛さんの気苦労がよくわかるなあ……」
「明日香ちゃん、そんなに盛大なため息をつかないでくれるかなあ……?」

 などとややネガティブな会話をしてるうちに、ようやく完成。
「どう、明日香ちゃん、へんなとこないかな?」
「……てんちょ、見せる人が違うから」
「うっ……」
「ほら、早く行って行って。きっと待ちくたびれてると思うよ」
「わかった、ありがとね!」
 仕方なしに小走りで向かう。背後に「里伽子さんの気苦労までわかっちゃったなあ……」という声が投げかけられたのには気にしない。

「お待たせ」
「遅い。なんでこんなときに遅れてくるわけ?」
「いや、それには深い理由があってだな……」
「問答無用」
「ま、待て!その格好で蹴りとかまずいから!」
 遅れてきたことに業を煮やしていた約一名をどうにか宥めたところで、改めてその姿を見渡す。
「……綺麗だ」
 そこには、純白のドレスに身を包んだ玲愛がいた。日本人離れした容姿とウエディングドレス姿の組み合わせは、その可憐さを何倍にも引き立てていた。
「……ありがと」
 柄にもなくストレートにほめたせいか、頬に少しだけ赤みが差す。その頬に、フライングだとはわかっていながらも軽く口づけをして、手を差し出す。

「さ、行こうか。待たせっぱなしはまずいからさ」
「待たせてたのは仁のほうだけどね」
 玲愛と二人、外へとつながるドアを、力いっぱい開け放つ。




――俺たちを祝福してくれる鐘の音が、高らかに鳴り響いていた。

――あちらこちらから、みんなの祝福してくれる声も届いてくる。

――その真ん中へと進み、俺と玲愛は、この先どんなことがあっても離れぬよう、
誓いの口付けを交わした。



 ようやく復旧したファミーユ本店。オープンを目前に控えた今日は、開店準備ではなく、俺たちの結婚式のためだけに存在していた。このためだけに鐘が設置され、庭には白いテーブルが料理や花とともに置かれ、親戚知人ファミーユキュリオ各メンバーがそれぞれで歓談している。
 各テーブルを二人で回ってあれやこれや話していくうちに、ようやく一人の人間にたどり着く。

「おめでとう、二人とも」
「ありがと、里伽子」
「玲愛もすごく綺麗よ、その姿」
「いいえ、それほどでも」
「ふふふ、まあ油断しないことね……」
「そんな安直なことはしないわよ……」
 ……二人の間に火花が飛び交うのがわかる。

 あの日以来、玲愛と里伽子は友達、というよりも親友といったほうが正しい関係を築いている。
 里伽子のリハビリは順調で、ようやく左手に少しずつ力が入るようになってきた。
 学業のほうも、俺と玲愛とで分担してヘルプに入り、一年周りより遅くはなったものの、この春俺と一緒に無事卒業することができた。就職先はもちろん、ファミーユだ。左腕が使えなハンデを乗り越えて、チーフとして玲愛とともに切り盛りしている。毎日助かって入るが……二人に怒られてばっかりなのはいかがなものだろうか。
 だけども、それは気にしないことにした。だって……


「二人とも、今幸せか?」
「もっちろん!」
「……まあ、とりあえずは幸せ、かな」

 

――祝福の鐘が、俺たち三人の為に、高らかに鳴り響いているのだから――


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