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HAPPINESS/冬:4

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 何故だか二人からああだこうだとぐだぐだぐだぐだ散々言われた後、今後の予定について話し合った。
 さすがに午後出るのは、僕ら的にはよくても従妹的には体調の問題、あるいは退院の手続きもあり、翌日朝二の便、九時半の飛行機で羽田へ飛ぶことにした(朝一は七時半と、病院から向かう時間としては厳しかった)。
 その他、病院から空港までの行き方、あるいは向こうに着いてからの細かい打ち合わせを経て、僕らは病室を出た。担当の医師の元に向かい、「家の都合で地元の親戚の病院へ明日移したい」ということを話し、偽の祖父からの委任状を渡して信用させて、家に電話することなく表面上の転院、中身は退院の手続きを終わらせる。
東京ではどこかの病院に入院してもらう、ということにはしなかった。トリカブトへの治療方法は実はなく、中毒症状を和らげる程度の療法を行いつつ毒素が排出されるのを待つ方法しかない。倒れた日からは当然トリカブトの摂取もないので快方に向かっているので、改めて入院する必要はないとの判断だった。
 後は、互いの家の暗部についてだが、こればかりは何も手を出さないことにした。残念ながら、証拠といえる証拠のほとんどは状況証拠だったからだ。唯一といえる証拠は従妹の体内に残るトリカブトだが、もしこちらに残ったまま訴えようとした時には、取調べを受ける際の拠点が必要となる。それは金銭的に厳しいし、時間的にも辛い。かといって向こうに移った後に訴えられるかといえば、可能ではあるが、やはり時間を取られてしまう。そして管轄外だといわれれば、結局戻らざるを得なくなる。
 こればかりは、妥協するしかなかった。

「向こうでも、妨害、というか阻止する手段はあるはずよ。例えばマスコミを使うとか、弁護士に訴えるとか。新たなる犠牲を作らないことは、あたしたちの宿命だと思う。今は直接的に手を出せなくても、近いうちに必ず、チャンスは生まれるから。そしてそれは、あたしたちがいなきゃ、出来ないことなんだから」

 従妹の言葉が、全てを物語っていた。悔しいけど、目的をはきちがえちゃ行けない。まずは、東京へ。

 念には念を、ということで、僕らは時間をずらしてそれぞれの家に戻った。家に着くとすぐに、帰宅途中で購入した便箋に、祖父宛の手紙を書く。中身は、僕らが真実を知ったこと。殺されるくらいなら家を出て、関係を絶つ選択肢を選んだこと。もう戻ることがないだろうということ。そして、彼女と、一緒になること。
 書いている途中は、申し訳無さと憤りが入り混じるという、よくわからない感情に襲われた。おかしな家ではあったけ、祖父に対してだけは、強い親しみを覚えていたからだろう。祖父から離れなければならないこと、しかし祖父は従妹への毒の投与を止められなかったこと、この二つの出来事が僕を混乱させる。
 どうにか気持ちの整理をつけつつ書き切り、封筒に入れてわざわざ町外れのポストまで投函しに行った。そのポストは一日一回の集配時間が早く、出しに行ったときには既に集配後となっていたからだ。今日中に届けられては、全てが露見してしまう。明日に届くよう調整するためだった。

 出し終わった後は、祖父と面会し、従妹が入院している間はこちらに滞在するつもりだが、そのための荷物は持ってきていないので、明日一度東京に戻り、荷物をまとめて再度やってくる、ということを告げた。なかなかに苦しい嘘ではあったが、それ以上にいい話を思いつかなかったので仕方がなかった。祖父は「そうか、わかった」とだけ答えてくれた。駅までの送迎の申し出を受けたが、個人的に寄りたいところがある、といってどうにかかわした。こちらも苦し紛れだったが、祖父は信用してくれたようだった。
 祖父と対面している間も、先ほどの奇妙な感覚に襲われた。裏切ることへの心苦しさと、怒りと。どうにか内面に押し隠し通せたのは、こちらに戻ってから……つまりは従妹が倒れてから見せる、少しだけ疲れた表情を祖父が浮かべていたからだった。まるで、別人の様相を見せる祖父に対して、違和感と同時に不信感を覚えた。

 その後は自分の荷物、そしてこっそりと従妹の荷物をまとめ(必要と思われるもの全てだったので、下着類すら触れなければならないのが辛かった)ほとんどを、家まで取りに来てくれる宅急便を利用し、家の近くまで来てもらって東京へ送る手配をした。人目を避けながらの作業だったが、幸いにも本家邸宅内には祖父と僕しか居ない状況だったのですんなりと終わらせられた。
 寝る前に、東京の友人数名に、「明日九時までに僕からの連絡が無かったら実家でトラブルに巻き込まれているから、次の住所まで警官を派遣するよう、鳥取県警に連絡してくれ」というメッセージを、実家の住所つきで送った。念のための保険だった。予定では八時半に空港に到着しているはずなので、それまでに到着しないイコール、何かあった、ということになる。信頼してる奴らだから、実際連絡がないと確実に警察に通報してくれるだろう。



 そして、翌日。つまり今日。天気はあいにくの雪模様だったが、いつものことなので気にも止めない。
 早めに起床し、朝食を取ってから家を出る。何か感慨深いものがあるかと思ったが、何も無かった。
 駅までタクシー、そこから列車。県のターミナル駅で降り、従妹の病院へ向かう。
 ロビーで彼女と合流。

「見つかってないよね?」
「当然。私を誰だと思っている」

 それから医師、従妹と面会して退院(正確には転院)手続きを終える。昨日の時点で僕らがタクシーで送ると告げてあったので、救急車で移送、などという提案もなかった。
 従妹の荷物をまとめた後、三人でロビーへ降り、辺りを確認してからタクシーを呼ぶ。

「さあ、行こうか」
「目指せ、東京」
「自由の地へ、だな」

 呼んだタクシーが玄関先に現れる。三人で後部座席に乗りこみ、空港へ、と指示する。
 ゆっくりと発進。市街地を突き抜ける国道から北に向かう。
 市街地を抜け、国道のバイパスに入り、道路標識に空港の文字が現れ始める。
 生へのフライトは、もうすぐそこ、だった。

 すぐそこで、費えた。

「あの、黒い車にどうも囲まれてるんですが」

 タクシーの運転手の言葉ではじめて気付く状況。
 周囲を黒塗りの車数台に囲まれ、そして強引に停車・横付けされる。
 どよめく間もなく、その内の一台から、二人の男が現れ、白昼堂々、運転手へと拳銃を突き付ける。

「ドアを開け、おまえは消えろ」

 拳銃にすっかり怯えた運転手は、ドアを開け、どこかへと走り去る。その様子を満足そうに眺めた後、二人組の男は後部座席のドアを開け、僕らを路上へ引きずり下ろし、一台の車を指差して告げた。

「乗れ」

 一瞬の出来事だった。何が何だかわからなかった。ただ、一つ言えたのは、

「父、さん……?」
「お義父、さ、ん……」
「……父様」

 拳銃を手にした二人組の男が、葛城家と醍醐家の、次代当主、ということだけだった。
 反目しあっているはずの両家次代当主に、三人とも強引に、一台の車の後部座席に詰め込まれる。
 二人の男も運転席、助手席に乗りこみ、車は発進。他の車も後ろをついてくる。
 車が走っている間、誰もが無言だった。前二人は僕らの方など見向きもせず、ただひたすら車を走らせるだけ。僕らは閉ざされてしまった希望への道、そしてこの先に待っているモノ、一言で言うなら絶望しかない状況に、言葉などを生み出す余裕が全く無かった。美知も、そして遙すらも、顔面を真っ青に染めて、脂汗をにじませ、脚を震わせていた。真ん中に座っていた僕も同じだったが、二人の緊張を少しでもほぐそうと、それぞれの手を握る。僕自信、誰かにすがりたかったから、手を握ったのかもしれない。
 それほどまでに、最悪な状況だった。そして、何故葛城と醍醐が手を組んでいるのかもわからなかった。


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