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HAPPINESS/冬:5

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 車は市街地から、実家のある町へと進んでいく。町に入り、山あいを進み、やがて町外れの一軒家の前で停車した。すぐさま乱暴に下ろされ、中へと引きずられていく。
 家の中は、普通だった外見とは異なり、一つの広い空間だけが存在していた。壁は四隅にあるだけ、まるで昔の公民館のような造り。窓は閉められ、カーテンにより外部からの光も閉ざされている。
 その真ん中に、僕ら三人は座らされた。同時に、正座の状態で後ろに伸ばさせられた腕、そして足首に鎖を巻かれる。とっさに、いつぞやテレビで見た縄抜けの方法(両手の小指と小指をくっつけた状態)を試し、気付かれぬまま巻かれたので、手だけは後の自由を保証されたが、足だけはどうしようもなかった。

 やがてドアから、続々と大人たちが入ってくる。父や母、叔父(もうさん付けなどしない)、あるいは有力傍系の長。見知らぬ人間も、同じくらいの人数が入ってきた。その数二十人ほど。祖父の姿は現れていない。ということは、この件はこいつらの独断、なのだろうか。

 人数が揃ったのだろう、彼らは僕ら三人を取り囲むように座る。僕らの正面には父、そして醍醐家次代当主、つまりは遙の父が座した。
 その手には、長い木棒。

「……ふん。ろくでもない餓鬼どもだな」

 開口一番、父が発した言葉。ろくでもないのはあんたらだ、と言いたかったが、最後の悪あがきのチャンスを見つける為に、言うのを踏みとどまる。言った瞬間、あの木棒が飛んでくるのは目に見えてわかっていた。父だけなら足が使えなくても交わせそうだが、何せこの人数だ。かなうわけがない。そして、拳銃を出されれば終わり。
 ……あまりにも不利な状況だった。

「てめえらのせいで、脈絡と受け継がれてきたシステムが狂うところだったじゃねえか。無駄な手間を掛けさせやがって」

 続けて、父の隣、遙の父が口を開く。
 だが僕は、その内容に疑問を抱いていた。
 この内容は、町の闇の部分について。
 ……何故、僕らが一緒になって逃げようとしていたことに、先に触れない?

「あの時にこいつらまとめて殺すか売り飛ばすかしていれば、こんなことにならなかったのにな」
「仕方ねえ。両家共に、くそジジイの横槍が入ったしな。まあ結果は変わらなかったけどな」

 そして、何でこの二人は、一緒になって、僕らを……

 頭の中で一つ、ある考えが生まれる。
 それは、今までの町の常識を覆すもの。だが、この状況こそが、僕の考えが正しいのだという証明になる。
 密かに左右に目を配ると、二人とも同じ考えに辿りついた様子だった。

 僕らの中で、最初に発言したのは、遙。

「……ふん。繋がっていたんだな、葛城と醍醐の家は。おそらく、相当の昔から。両家のシステムが同じだったことにも納得が行く」
「おい遙、おまえに発言権を与えた覚えなんかねえぞ」
「……まあよせ、寛次。最後の真相暴露の時間くらい与えてやろうではないか」
「お言葉に甘えさせてもらうとしよう、葛城の次期当主よ。……葛城と醍醐、二つの家が権力を争う裏側では手を組み、互いに不穏因子を毒物によって取り除きつつ、町を牛耳る。この仕組みを考えた祖先は頭がよかったんだろうね。一つの家による独占支配は、民からの不信感を向けられるなどのデメリットが多い。対して二つの家が争う形なら、公平性があると錯覚し、どちらがその時に権力を握ろうとも気にすることはない。これがもし、欧米の二大政党制の如く本当に敵対し合っていたとしたらよかったのだが、内実、一つの家が形を変えて支配し続けるようなもの。表立って権力の上に立つ側が権益を得たとしても、半分にわければ両家の間に何の争いも生まれない。民に反乱を起こされる可能性が少ないまま、利権を吸える。実によく完成されたシステムだなと、感心してしまうよ。そして、その利権にかじりつかんばかりに、暗部を告発し、町に風穴を開けようとしたものを、いとも簡単に消し去ってしまおうとするおまえたちにもね」
「ほう、そこまで気付くとはさすがだな、醍醐の娘よ」
「簡単なことさ。この状況下で気付かぬ方がおろかという奴だ。そして、本来なら私と新一が未だに付き合いを続けていることに、町で言うところの非がある状況下で、それを先に非難しようとしなかったからな。このくらいは、新一も美知もわかっているという顔をしているがね」

 父の視線がこちらに向けられる。
 いつもの、人を射殺さんとせんばかりの、鋭利で冷たい視線。

「……お前らにも、最後の懺悔の時間を許してやろう」
「最低の人間め」
「人以下ね」
「……ろくでもない餓鬼どもめ」

 すでに言いたいこと全てを遙に言われていたため、僕や美知は、単なる罵りの言葉しか出てこなかった。
 それらに対しても、ぴくりと眉を吊り上げ、開始早々に吐いた言葉しか父親は返さない。

 辺りを見まわす。
 誰もが、僕らの死を確信していた。
 誰もが、僕らに対して、冷たく、淀んだ視線を向けていた。

 ……ここは、本当に腐っている。腐っている中で、僕らは、朽ち果てていくしかないのか……


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