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HAPPINESS/冬:9

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 そこから先はあっという間だった。
 扉から大量の警官がなだれこみ、次々と大人たちを逮捕、連行。とりあえずの罪状は逮捕監禁。この後、町の裏側で行われてきた、大量の毒殺事件を立証していくらしい。やはり状況証拠がほとんどではあるが、捕まった人たちの一部に供述する意志のある人たちもいて、僕らだけでやるよりも早い解決が出来そうである。
 僕らの祖父二人も、警察に連れていかれた。自宅内とはいえ、草木に火を付ける行為は罰せられるらしい。だが、町の暗部面に関しては、どうやら詳しく事情を聞くだけのようだった。

「醍醐家でも葛城家でも、おじい様たちが就任してから今までに、謎の病で倒れた人はいないのだよ。おそらくはおじい様たちが手を回してぎりぎりのところで回避してきたのだろう。それに私が、おじい様たちを外部の人間と思いこんでいた人たちが、当主となる前のおじい様たちに暗部について関与させていたとは思えない、という趣旨の話をしておいたからね。ついでにいうと、先ほど鎖に縛られている間の会話も全部ボイスレコーダーに録音しておいて、それも証拠として提出してある。いやあ、便利な世の中だよ、本当に」

 県警から、用意されたホテルへの道の途中。相変わらず雪は降り続け、音を吸い込んでいく。
 白い世界の中で、遙は今日一日だけで何度となく見せつけてきた例の笑顔を浮かべた。

「遙……あまりにも用意周到すぎて、さすがのあたしも驚く以外に何も出来ないんだけど」
「まあ私もある程度のことがあっても逃げ伸びることが出来るようにとは考えてあったんだが……よかった、手品の種が尽きる前に決着が付いて。あれ以上のはったりはもうなかったんだ」
「でもさ……あんな放送出来なそうな文面を臆することなく話していたのがばっちり録音されているテープ、必要とはいえよく警察に渡せるね」
「いや、私の名前は私自身で言ってはいないからね。新一の名前は散々出ていたかもしれないけど」
「……げ……」
「あー、あの内容だと、外で嬉々としてサルになるお兄ちゃん、仕方なく付きあう遙って構図になるかも」
「そういうことさ。私は特になんとも思わない」
「……僕としては、今すぐ取り戻して該当部分だけビープ音重ねたいんだけど」
「そんなことしても無駄だよ。コピーはいくつもあるからね」
「な、ど、どうしてそんなのがあるんだよ!?」
「実はあたしのノートパソコンに取りこんでるんだよねー」
「消してくれよ! まったく……そういえば、さ」

 まだ当日だというのに、能天気な会話。まるで今回のことが全て夢物語だったかのような錯覚を覚えるが、身体全身に残る強烈な現実感が、あれは実際に起きたことなんだと訴えて止まない。

「町ってこの先どうなるんだろ? 今回の件で、牛耳ってきた人間の大部分が消えてしまうんだから、町政とか維持できるのかな」
「お兄ちゃんは心配性なんだから。なるようになる、よ」
「美知の言う通りだろうよ。人が居なくなれば、また新たな人が必要な立ち位置に立つ。それが、本来のあり方なのさ。次の人が現れるから、いい方向に循環していく。そうやって人は次のステップに立つことが出来る。あんな閉鎖的なシステムでは仮初の幸せは成し得ても、本質では違ったものか生まれない。人が自由に巣立てるような開かれた未来こそ、」
「……そうだね。なるようになる、か」
「そーそー新しいのはいいことなんだよ。だから、お兄ちゃんも古女房はとっとと捨てるべきだと思うけどなー」
「……はいぃ?」
「ほほう? 古女房がいったい誰を指しているのか私にはとんと見当が付かないが、あっさりと古きを見捨てるのもどうかと思うがね。古いものには古いものなりの……いや違うな、古いものとか新しいものとか関係ない。いいものが、いいものなんだよ。何をいいものとするかは色々あるだろうけど、相性とか、性格とか、様々な要素を考えて判断すべきだ。一概に新しいものがいいとは限らない。ものによっては、保証期限が切れた瞬間に修理が必要となるような代物も紛れているからね」
「そのソニータイマーが誰を指しているかは知らないけど、別に永久保証だったら構わないんじゃない? 他にも随時アップデートを更新したりするとかしたら満足でしょ」
「……あの、どこからそういう話になったのか全く理解できないんだけど、僕には」

 僕の呟きを無視して、二人は言い合いを派手に始める。街の往来でマイクロソフトがどうたらとか、なんだかよくわからない内容だったので、僕も対抗せんとばかりに完全無視。一歩遅く歩きながら、先を見つめなおしてみる。

 ……結局、僕らは三人で、一週間後に東京に移ることになった。
 ほぼ全てが解放された状態の町では、僕らの行動に何も制限はかからなかったのだが、遥や美知には別の大きな目的も存在した。

 ――東京の大学で、色んなことを学びたい。

 女が大学なんて、などという時代錯誤の言動に縛られた二人には、大学で勉学をするというのが大きな魅力でもあったのだ。無論、今から今年度の受験は間に合わないので来年度の受験になるのだから、別にそれまでは残って勉強してもいいような気もするし、何も東京でなくても、距離的に近い近畿圏の大学に進んだっていいような気もするが、そこは、それらしい。……これ以上は自分で言うのも恥ずかしいので、やめておく。まあ、嬉しいことには違いない。同時に身体がもつのかどうかも怪しい。というか、年頃の女の子をよく男と一緒に住ませる決断するなあ、じいちゃんたちは……絶対、単に面白いからって理由の方が大きいと思うけど。

 先にも、きっとつらいことは待っている。だけど、それは縛るモノが何もない地だからこそ受ける、嬉しい苦しみであって。

「おーい、お兄ちゃん、あまりに遅いと置いてくよー?」
「そうだぞ、いくら今晩体力を使う予定があるからって、そういうせこい温存はどうかと思う」
「ってそれどういう意味よ!?」
「さあ、あそこのサルさんが知っているんじゃないかな」

 いつの間にか十歩分も離れていた二人が立ち止まり、僕へと振り向く。

「僕は何も知らないから! 多分!」

 二人に追いつくために、滑らないよう慎重に、だけど大きな一歩を、僕は踏み出した。


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