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HAPPINESS/夏:4

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 山の麓にある、やはり無駄に広い寺。本堂の裏手にある墓地に、どこにこんな人数が住んでるんだと疑問符を浮かべたくなる人数の親戚一同が集合していた。日本を直撃している高齢化の波もどこ吹く風、今現在いる直系筋ならびに傍系筋でも血が近いか実力を持つ家系に関しては、お年寄りから乳飲み子まで、割と各年代のバランスがいい。これは、高齢の人間の割合が増えるのを阻止するため、というよりも子孫を確実に残し、相手側に乗っ取られないように次世代を育てるという計画的な出産が代々行われているからである。それはあちらさんも同じなので、特定の年齢、たとえば俺や彼女、従妹と同じ今年度で二十歳世代というのはこの町で多かったりする。

 百二十人強の人数が、一つの大きな墓石に向かって、等しく頭を垂れている。
 これもまた独特の風習で、直系傍系問わず、うちの血を引いている者は皆、死後この墓に骨が納められる。血にはうるさいくせに、コレに関してはおおらかというか、温いというか……不思議だ。第一、いつから火葬が始まったのか知らないけど、もし土葬が存在するころまで遡っても家系図があったりするのなら、その時の人間たちは皆、今居る足元に埋められたということになる。考えたくもない。
 長である祖父の一声で、皆下げていた頭を上げる。そして、祖父の先導で本家……つまりは僕の実家へと戻っていく。先頭に祖父、その後ろに僕の両親、そして僕と従妹、以下地位順叔父さん叔母さん……などと並んでいく。
 僕の両親は三兄弟の長兄なので、次代の当主となることが決まっている。そして僕は次々代の当主。これが規定路線。従妹は本来三兄弟の次兄の娘なので、地位的に僕の横に居てはいけないのだが、従妹の両親が不幸にも共に例の病で十年前に死去し、それ以来僕の両親の養子となり、僕と同程度の立ち位置となっている。これの魂胆は見え見え。血を重要視する家系であることを考えたら、従妹は将来的に養子から外れ、僕と結婚するのが規定路線なのだろう。僕と一緒に育てられたのも、ある種の帝王学を当主夫人にも求めているのと、僕との生活を当たり前のものにするため。馬鹿馬鹿しい。そしてこの後を考えるたびに、従妹には大きな負担が掛かることが予想され、申し訳なく思う。……万一、従妹にすら危害を与えようとするのなら、昨日の宣言通り、排除してやる。そして、東京にいるだろう僕らの元に来てもらい、その後は僕のことを忘れ、自由に羽ばたいてくれたら……

 実家に辿りつくと、また宴会。太陽もまだ傾いてはいないというのに、ご苦労なことである。
 昨日とは違い、従妹の飲むペースも普通だったので、僕は安心してゆっくりと、料理を摘まみ、酒ではなく水を飲んでいた。さすがに二日連続で大量の酒を飲めるほど、肝臓が出来ちゃいないのは、どこぞの新観コンパ三連発で学習している。
 相変わらずの従妹からの積極的なコミュニケーションという名の逆セクハラを交わしていると、父から声が掛かる。

 ――祖父が、呼んでいる。

 瞬間的に誰かにばれたのでは、という恐れをどうにか内面に押し込むことが出来た。これは自分を誉めてもいいと思う。
 あまり時間を掛けるのも怪しまれるので、すぐさま気持ちを切り替え、席を立つ。従妹がわずかに目配せをしてきたので、今時はやらないとは思いつつもウインクで切り返して安心させる。効果の程を知る前に、僕は父の後についていった。

 通されたのは、祖父の執務室。ここ、ということは単なる雑談のみ、というわけではあるまい、と思うのは時期尚早。

「宴の最中にすまぬな。啓一、お前は下がりなさい」

 眼光を光らせ、父を退室させる一連の動作に、当主として生きてきた重み、あるいは力強さを感じる。
 ……父が居なくなり互いに席に着いたところで、その力は霧散してしまうのだが。

「すまないねえ、新ちゃん。せっかくみっちゃんとお楽しみのところを邪魔しちまって」
「じいちゃん、態度変わるの早すぎだから。誰かが聞き耳立ててるかもしれないよ」
「その点は大丈夫。ここの息がかかっていない業者に、カメラや盗聴器の類がないか調べさせたからな。見つかって持ち主がばれた時のことを思えば、誰も仕掛けたりせんよ」
「それはそうだけど、でもじいちゃんの場合は……」
「何、腐っても外様でも宗主は宗主。逆らうことなど出来んよ、誰もな」
「……僕らには本当に甘いけどね」
「それは孫だからのう。子は憎かろうとも、孫は目に入れても痛くないわ」
「また安直な表現を……」

 今目の前にいるのは、単なる孫にだだ甘の、世間一般のお財布係のおじいちゃんだった。公の場ではきっちりと、当主たる人間としての振る舞いをしているが、僕や従妹だけしかいないとなると、すぐさま態度を変えるのだ。
 ……従妹以外には唯一といっていいほどの、よき理解者である。

「本当はみっちゃんも一緒に呼びたかったんじゃが、そうするといらぬ噂が立つからのう。噂は必ず尾ひれ背びれがつくからのう。余計なことはしない、これは鉄則じゃ。……やっぱり呼べばよかったかと今では後悔しておるが」
「どっちなんだか、いったい……というか、世間話なら昨日したじゃないですか。ということは何か別の話でも? それとも単に昨日のだけじゃ話し足りなかったとか?」
「それもあるんじゃが……今後の人生の為に、わしだから、外から来た人間だから言えることを伝えようかと、の。新ちゃんももう二十歳。先の身の振りを考えんといかん時期じゃろ?」

 じいちゃんの言葉に、僕は違和感を覚えていた。
 先の身の振り? 本来なら敷かれたレール以外を走ることなど許されない立場の僕に掛ける言葉じゃあない。
 ……今度こそ、背筋が凍る。

「おそらく、次はじいちゃんもフォローできない。当主といえども、一族会議になったときにはフォローしきれんよ」

 はぐらかされてはいる。だけど、何を意味するかは一目瞭然――

「何が大事なのか、見誤っちゃいかん。大切なものを失いかねない。まだわからんとは思うが、じいちゃんは先代に厳しく教え込まれた。新ちゃんも、これは忘れちゃいかん。……この地では、何かを得るためには何かを犠牲にせんといかんのだよ」

 部屋の窓の外には、例の相変わらずよくわからない草が、紫色の花と共に風に気持ちよさそうにたなびいていた。


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