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world's end/一話

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 世の中色んなトラブル続き、である。詳しくは目から汗が流れてきそうなので伏せるが、泣きっ面に蜂というよりも泣きっ面に細木数子、といった感じだ。自分でもよくわからないが、まあともかく、仁鶴さんに諸々解決してもらいたい所存でございますといった次第のところに、追撃がやってきた。

 ちょっぴり大急ぎでセンター街の人ごみを駆け抜けていると、不意に目の前に結ばれた右手と左手が現れたのだ。

「あ、うぉんがっ!!?」

 どうにもこうにも止まりきれないのでベリーロール気味に飛び越えてみたら、背中から地面に落ちた。かろうじて受身を取って後頭部をぶつけるという無様な状態にはならなかったものの、いい感じに落ちたらしく視界をお星様が駆け巡り滅茶苦茶痛いのだが、いくらなんでも今のうめき声はないだろう、俺、とセルフで突っ込んでおく。
 そのまま渋谷の中心で今は懐かしきセカチューごっこ、要するに仰向けに寝転がっているだけなのだが、それをしながら先ほど急に現れた手二つの行方を探しに視線をさ迷わせてみると、それはすぐ目の前にあった。そのまま見上げていくと、よく似た女の子が二人、手をつないだままこちらを驚いた様子で見下ろしている。まあ、自分たちの腕をベリーロールで飛びぬけていく人間などそんなにいるわけないだろう。というかいたら怖い。自分のことだけど。
 んなこんなでぼやっとした時間が幾数秒。

「もしかして、見えてる?」

 二人組の片割れが、そう声をかけてきた。
 見えてる――さてこれは一体何を意味するのやら。思案しながら視線を下げたところで、見えてしまった。しかも二つ、というか二枚というか。

「……水玉模様はまあともかく、リアルで縞々穿く奴ってそうそういないよな?」

 その言葉に、片やあわててひらひらと舞うスカートの裾を押さえ、もう片方の声をかけて来た方は、

「み、見るんじゃないっ!」

 とまあ、見事な脳天直撃蹴りを決め腐ってくれたんだ。もうそれはそれはあまりの痛さに悶絶して一頻り暴れてみた後に、「一緒に世界目指さないか? 女子プロの」と声をかけたくなるようなやつのほうを見てみると、もう片方ともども何故だかとっても驚いていた。いや、いきなり蹴りいれられて、驚きたいのはこっちの方だというのに。

「な、なんで……?」
「なんでもかんでも、パンツ見せてんのはそっちなのに蹴られた方がなんでと言いたいわっ!」
「っていうか話ができてる!?」
「会話にはなってないけどな!」

 いやあもう、蹴られた以上に頭が痛い。概ね精神的に。この後胃痛とか発生せやしないかなどと不安を覚えてみたら、なんとなくこちらに飛んでくる視線が痛い気がしてきた。

(ん……なんだ?)

 辺りをこっそり見回す。あの人ちょっと変な人よね的視線が、コレでもかといわんばかりにこちらに降り注いでいた。まるで悪いのは俺だけだと言わんばかりの……
 と、ここまで思考が飛んでいったところで、ようやくこの状況が変なことに気付く。あと会話になってない例の会話も。

 どうやら見えてる、というのはパンツじゃなくて彼女たち自身のことらしい。だって周りの視線は彼女たちに一切向いてないし。
 んで、なんでと驚いたのはどうやら蹴ったこと自体らしい。
 さらに話が出来ているというのは、文字通り「俺と彼女たちの間で言葉のやり取りが出来ている」ということ。
 この辺を鑑みるに……
 あれか、こいつら人外か。俗に言うユーレイさんってやつですか。真昼間からご丁寧にどうもどうも。
 結論らしきものにたどり着いた俺は、立ち上がってジーンズの埃を払う。それからいぶかしげな視線を向けてた周りの方々に「いやあちょっぴり魔が差しまして」と愛想笑いを振り回してから、駅のほうへ一歩二歩。今日は帰ろう。晩御飯はきっとカレーだ。作るの俺だけど。

「って、ちょっと待ちなさい!」

 後ろから何か聞こえる気がするのは、きっと空耳だろう。俺を呼び止める人物にセンター街で出くわす確率なんざ無いに等しい。というかゼロだゼロ。だもんで、誰かさんに肩を引っ張られているような気がしても、こいつは空耳なんだ。感触なのに空耳。いっつくーる。世界は不思議で満ちている。

「待てって行ってるでしょうに!」

 ……どうやら空耳の発生源は、自身の事を空耳だと思われたくないらしい。目の前に割り込んできて、両手を広げて通せんぼしてくる。かわいそうに、もう一人の子はそれに付き合わされて通せんぼ、というかこちらの裾をきゅっとつまんで話さない。
 さてどうしたものやら。別にこの手合いの事に遭遇したことがないわけではないというか、むしろ年がら年中だったりするのだが、如何せんここは渋谷のど真ん中である。残念ながら人外の方と意思疎通を図るには人が多すぎる。その上……

(俺、鬼ごっこの途中なんだがなあ……)

 ベリーロール直前、何故自分が走ってたのかまで思い出し、ここに留まり続けるのは得策じゃないことに気付く。さてどうするべ。
 二人の方を見る。強気と弱気、性質そのものは本体に依存するのであろうが、こちらに向けられた視線は確かに俺に何かを求めていた。

「あー、とりあえず付いてきな」

 小声で二人だけに聞こえるように話してから、一歩二歩と歩を進める。きゅっと裾を二箇所掴まれた感触が続いているので、二人とも付いてきているのだろう。やれやれ面倒っぽいなあと小さくため息をついてから、二人のペースに併せながらも若干早足で、頭に浮かんだ場所まで行くことにした。


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