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world's end/三話

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「ねえ、はあ、ちょっと、はあ」
「はあ、なんで、はあ、しょう?」
「はあ……ふう。何で必死の形相してた人たちに追いかけられてるのアンタは!?」
「いや、ちょっぴり罪作りな男でして」
「そういうレベルじゃないでしょうあれは!」
「幽体でもへばるんだなあ」
「それどうでもいいから!」

 ビルからでて五十メーターも進まないうちに敵襲に出くわすのは、まあいつものことである。

「……外国の人もいた」
「あー、いるかもなあ」
「なんなのよいったい……マンション入ったら追ってこなくなるし……普通寝こみを襲うのはお約束でしょう?」
「それはやめてもらってるんだ、うん」
「話通じるわけ?」
「一部は」
「いったい何なのよもう……」

 幽霊さんにあきれられる俺。きっとレアな存在であることだろう。

「まあ、これで部屋覚えただろうから、いざとなれば勝手にここに来ればいい。お前さん方を見れるやつはいないはずだから」
「相手の素性もわかってるわけ?」
「まあ、だいたいは」
「いったい何なのよもう……」

 同じこと二回言われる俺。きっと大事ないや違うか。

「そのうちわかるさ……いや、今言ってもいいか」
「は?」
「だから、あんだけ大勢の方々に追われるわけ」
「は、はあ、言ってもらえるならそれはそれで」
「……知りたい」
「あ、そ」

 どーにもこうにも、彼女たちにもう完璧に情が移ってる俺。まあいいや、と、おそらくこの人生で一番の秘密(いや知ってる人はいっぱいいるんだけども)を、なんとなくこの二人に言いたくなっている。面と向かって人に言うのはあれだ、多分三番目くらいか。

「実は俺、超能力者なんすよね。しかも、思い描いたことを、現実にするって言う」
「はあ。で、理由は?」
「いや、だから、俺が超能力者で、しか」
「え、本当にそれなわけ?」
「冗談だと思ったろう?」
「……私も冗談だと思った」

 ありがとう妹さんよ。君が喋ってくれただけでありがたい。話した価値がある。

「まあ色々と制限はあるんだが、さっき言ったとおり、思い描いたことを、現実世界に具現化できる。当然、そんな能力ほしいやつらはいっぱいいるわけだ」
「……アンタ思いっきりファンタジー存在じゃない」
「ありがとうファンタジー存在に言われると価値が出てくるな、うん。つーわけで、あの人たちは俺を捕まえて色々利用したい人たちなわけだ。ついでに言うと、家とか隠れ家とかまで来ないのは俺がんなことするところには無を与えようって言ったからだな、うん」
「殺すとかじゃないのが生々しいわね、ファンタジー的に」
「存在が消えたら後腐れもないしな」
「というか、全員の記憶を触ってアンタのことを忘れさせたらいいじゃない」
「それは考えた。つうかやった。だがちゃーんと防衛策張られてたわ。見事に後で記憶取り戻しやがるのな。まあ後で言うが、他にも理由はある」
「……ゴキブリ」
「まさにゴキブリだな、うん」

 いい加減話し疲れたので、コーヒーカップ三つにインスタントコーヒーを淹れる。

「砂糖とミルクは?」
「一つずつ、ってアタシたち飲めないんですけど」
「いや、ちょうど良いから超能力を見せてみようかと」

 面倒なのでクリープとスティックシュガーを袋ごと持ってきて、二人の前に並べる。

「さて、いきますか」

 一口コーヒーを飲んでから、自分の意識レベルを自らの奥深くへと持っていく。想像する場所は、深ければ深いほどいい。奥深くに根付く、自分自身そのものと向き合って、改めて、自分の望む現実を、理想を、具体的に思い浮かべる。

「――今目の前にいる幽体二体に、望むときには生きとし生けるヒトと同じ実体を、与える」

 イメージは簡単だ。二人が、食事を出来るように。モノに実体を伴って触れられるように。簡単だ。ついでにピンク色の妄想が混じったが、まあイメージ強化として勘弁してもらおう。
 具体的なイメージが出来上がり、それが実現すると、イメージは自然とはじけ飛ぶ。そして。

「試しに、飲んでみ?」

 恐る恐るカップを持ち、恐る恐る口につける二人。

「……飲める」
「コーヒーの、味だ……」
「なら、お前らは今、実体を伴った存在、というわけだ。普通にモノに触れる。味覚がわかる。嗅覚もわかる。触覚だって当然」
「あ、あははは、すごい、本当にファンタジーだ……」

 呆然とする姉。驚いた様子の妹。いや驚くことに驚きだけども。

「ただ、な。一応言っておくが、お前らは別に生きてはいない」
「へ?」
「言い方きっついが、ただ実体はあるし、これはおまけしといたが、望めばその時には他の人たちにも認知される。ただ、生きちゃいない。つまり……正式な手続きを経て、この世の中に存在しているわけではない。ある種イレギュラーな実体なんだ。だから、あらゆる生命活動とリンクするものには関われない。これ見たらわかるわ」

 ぽいっと温度計を投げ渡す。

「それ、握ってみ?」
「……温度が変わらない」
「そういうこと。体温ってのは生命活動にリンクするから、体温が生まれることはない」
「なるほどね……ということは、今飲んだコーヒーはどうなるわけ? 消化は生命活動にリンクするでしょ?」
「エネルギー化の部分がリンクされない。だから消化自体はされるし、出すもん出すことにはなる。あ、あと怪我とかもしない。つうか死、という概念が発生しない」
「痛覚は?」
「一応触覚が生きてるときは発生する。が、あくまで痛いだけだ。おまけして実体化は望んだときのみにしといたから、実体化を消せば多分消える」
「……とっても便利」
「へえ……すごいのね、アンタ」
「まあ、世の中の方々が望むくらいだからなあ」

 現実は小説よりもなんちゃら、である。

「一応、出来ないこともいっぱいある。たとえば無から有を生み出すなんてのは無理だし、時間移動も出来ない。この力に関わる根源部分への影響も与えられない。世界は常に、バランスをとるように出来てるのだよ、うむ」
「でもその程度なら十分でしょう? 何でも出来るじゃない」
「他にも色々と制限が厳しいのと、あとあれだ。一日一回しか使えない」
「はあ?」
「いや、この力使うの一日一回だけなんだよね。しかもご丁寧に、日本標準時じゃなくて、世界標準時で零時を指したらリセット。だから後十九時間ちょいは使えない」
「そ、そんな力、今もう使っちゃっていいの?」
「まあいいだろ。どうにかなるし、だいたいこんな力使わなきゃならないときなんてのは、本来ありえないんだから。普通は持ってないんだし」

 望んだわけじゃないんだけどな、と心の中で付け足しておく。おかげさまでこの方、平穏たるものを得たことがほとんどないのだから、こんなもん持たなきゃ良かったとさえ思うこともあるのだが、まあ今回ばかりは彼女たちのためにもなったしまあオーケーか、などと適当にうっちゃりをかましておく。人間、時折投げっぱなしジャーマン系統を放つことは重要なのだ。

「まあ、とりあえずだ。さすがに一人一部屋ってわけにもいかないが、俺とくんずほぐれつ一つのベッドでってわけにもい」
「い、いくわけないでしょ!」
「いやさすがに俺もそう思ってるから残念だけど」
「……残念なの?」
「コホンッ! いかないから、使ってない部屋一個あるから、そこを使えるようにするか」



「ふと思ったんだけど」
「ん?」
「アンタいいとこの坊ちゃんとか? 普通都心部近くで3LDKのマンション借りてる一人暮らし学生とかありえないでしょ」
「バイトの収入がまあそれなりと、あと週二、三回デイトレードしてりゃあこんくらの生活は余裕っす」
「……よく見たら、家電製品も高い。このカップもブランド物」
「はっはっは。俺と結婚したらある種玉の輿よ? 性なる夜でもいっとく?」
「死ね」
「ぐぼうっ、ちょ、実体化してようとしてなかろうと俺に関しては思いっきり殴られるんだから、手加減位しろ……」
「言葉の端々に変態度を感じ取りました♪」
「いやそんなにこやかに言われても……って」

 なんだか家にヒトがいるってだけであれだね、温かいね。ついつい時間の進み具合を忘れてしまうアルヨ。

「そうこうしてるうちにバイトの時間じゃないか。つーわけで行ってくるわ。まあ家ん中のものは壊さなきゃどう使ってくれてもかまわない」

 そんだけ言い残して自室へ。適当にブランド物のスーツを着込んで鏡を覗き込む。うむ、今日も男前。

「……バイトって、まさかホスト?」

 リビングに出てみると、驚きとやや軽蔑の視線が一組ずつこちらに刺さる。いやあ、妹さんのほうは驚いてくれましたかうんうん。

「このご時勢、マネーの稼げるバイトといったらやっぱこれっしょ♪」
「そんなにこやかに言われても。ま、まあ、見かけはそれなりっぽいから、どうにかなるのね……」
「どうにかって失礼な。一応店一番の稼ぎなんですけども」
「は、はあ……」
「あ、お前その顔疑ってるだろ! なら幽体化してこっそり見たら良いさ! モテモテモードの俺をなあ!」
「自分でモテるとかいってるやつに現実問題モテてる奴なんていないじゃない……」
「まあ、見たらわかるさ」


***


「……」
「……一番の稼ぎは、多分、本当」

 真後ろで俺にしかわからないどよめきが起きている。まあそりゃそうだ。家出て真っ先に向かったのがマイハニーナンバー……番号忘れたけど、まあ麗しき女性宅。そこでちょっぴりニャンニャンして、腕組んで店行って、その間もガンガン指名が入る様を目の当たりにしてるのだから。女子高生に見せるものではないのだろうが(幽体に歳があるのかはこの際おいとく)、あんだけ失礼なことを言われたら社会の現実とやらを見せなきゃならんわけです、ハイ。ついでに言うとニャンニャンシーンはさすがに見てなかったが。別に見られても構わなかったんだが……

「あいたっ」
「え、ヨウ君どうしたの?」
「あ、いやいや、今日も君に会いたかったよ♪ って」

 どうせまた地の文を読まれたのだろう。多少頬を引きつらせながらカバーしておく。

「何よ音符マークなんかつけて」
「……」

 うむ、あれだ、下手なやきもち的なものより沈黙のほうが痛いとはまさにこのことである。

「というか思ってたのと違うけど、案外お酒飲む人少ないのね……」
「そりゃこれから出勤のお姉さま方も多いからな」

 休憩時間、一人奥に引っ込んでるときに姉のほうが問いかけてくる。世間的なホストクラブの印象、といったらこいつの言ってる姿のほうが正しいのだが。

「同伴出勤の前にここ来て、俺と楽しくおしゃべりしてから行くって方も多いのよ、これが」
「わからない、世間はわからないことばっかりね……」

 頭を抱える姉のほう。

「……きっと、」

 対して妹のほうはというと、おろおろしてる姉とは違い案外冷静な様子である。

「あなたが、みんなに幸せを与えようと、しているから」
「……ほう?」

 ついでに着眼点も鋭かった!

「軽薄な振りして、博識。結構いろんな分野の話に、深い部分まで対応している」
「まあそれは浜っ子一のテキトー野郎と言われた俺様だからな」
「……テキトーなんかじゃない。そんなが相対性理論一般の概略を諳んじる事が出来るわけない」
「いや、女子高生がアインシュタインわかるほうが怖いから」

 あんまり表情には出てないものの、ちょっぴり疑いのまなざしを向けられてるのを感じる。よくよく会話を咀嚼し、理解している。俺にはそんな妹さんのほうが怖いんです。

「アンタ一体何者なのよ……」
「すげえな俺、ついに幽体状態の奴にまで何者なのだと聞かれるようになったのか」
「普段から聞かれてるわけ!?」
「いえーすあいどぅー」
「……英語の文法的には、受身だからYes,I am.のほうが正しい、と思う」
「細かいなおい。つうかこれだと休憩にならねえええ!」

 まあ、ドンだけ疲れてもどうにかなるのが、浜っ子一のテキトー野郎なわけで。その後も歌舞伎町の夜の烏(?)としてお客さんを呼び込んで接して、勤務時間後に地方から上京して来たはいいもののなかなか友達が作れなかった深遠のお嬢様(女子大生)のアフターへと繰り出し、出勤時と合わせて四発ほど発射(何なのかは言わない)しといて、帰ってきたのは日付が変わる頃合である。これでも普段より遅いくらいなのだが、他のホストの方々に比べてやたら帰宅時間が早いのは、一応大学生でもある故である。店に相当金を落としているおかげか、結構融通が利くものである。えっへん。

「……種馬?」
「ちゃうわっ!」

 胸を張ってみたら、えらく失礼なツッコミが帰ってくる。ついでにいうと、来ない方がいいと言ったのにアフターについてきた約二名である。ソッチに興味深いお年頃、なんてのはとっくに過ぎてるだろうに。

「いいかい妹さんよ。種馬は生命を植えつけるから種馬。俺は中には出さない主義だから違うのさ!」
「そういう意味じゃないでしょうにっ!」

 凶暴なほうに、スパーンと思いっきり頭をはたかれる。どうでもいいが、いつ作ったんだそのハリセン。ビンタとか蹴りよりかはありがたいが。

「し、仕方ないだろう? これも仕事のうちなんだから」
「なんであんなお嬢様お嬢様した人が、こんなのと、その、せ、性交渉を求めるんだか」
「素直にセックスだのエッチだの言えばいいだろうに。純なお年頃か?」
「う、うるさいっ!」
「ぐげぎばっ……」

 いい加減やられる擬音シリーズができそうだぞ、俺。つうかハリセンせっかくあるんだから使ってください。

「わからない、わからないわ……」
「さっき軽く説明したろうに。あの子は寂しい思いをしてるんだよ。だから俺が、その隙間を心身ともに埋めようと……」
「……セクハラ」
「手厳しいなおい」

 なんというコンビネーションなんだか。あれか、セクハラしてはいけない二十四時間みたいなもんか。まあするなという話ではあるけども。

「と、いうか」
「ん?」
「さっきアンタ、彼女にお金、渡してたわよね? しかもおそらく、彼女が店で使った額の、半分以上のお金を」
「なんのことだねワトソン君」
「アンタのキャラがいい加減つかめないんだけども、あんなに渡してたら、アンタの稼ぎを上回るんじゃない?」
「さあ? まあそういうこともあるかもねえ。たまたまさ」
「……嘘。あの人は、いつもありがとう、と言ってた。偶然じゃない」
「何で俺は得体の知れない幽体に得体を把握されなきゃならんのだ……」

 まったく持って好奇心旺盛というか、着眼点が鋭いというか。よく見聞きしてらっしゃることで。なかなか立派な教育をされたのだろうか、親御さんは。どこのどちらさんかまだわからないけど。

「なんか、ますます不審者なんだけど。アンタ」
「ついに不審者扱いか」
「だっておかしいじゃない色々と!」
「まあ、そりゃおかしい部分もなくもないなあ」
「なくもないってレベルじゃないわよっ! 何、何なのいったい!?」
「幽霊に正体を問い詰められる俺って何なんだろうなあ?」

 なんか、いろんなものを超越した存在になってないか、俺。まあ力的にはその辺の人間よりかは、だろうけども。

「……あなたは、」

 なんてちょっぴり厨二病を発症させてみようとしたところで、鋭い妹さんのお言葉。

「やっぱり、お人よしすぎる」
「……まあ、そうなる、の、かなぁー」
「全部、さりげなく人を幸せにしようとする。それで、自分に被害が及んでもなんとも思おうとしない。そういうタイプ」
「なんか死亡フラグ立ちまくってるなおい」
「……推測だけど、実際に何度も死にかけたことが、あるでしょう?」

 ご明察。

「人を詮索するのはその辺にしときな。例え正体不明だろうとも、俺はお前らに危害を加えたりはしない。手は出すかもしれないけど」
「最後のは、はぐらかし?」
「いや本音。だってお前、考えても見ろ。ジョシコーセーだぞジョシコーセー。しかもかわいいときたら手を出さない方が間違ってるだろう?」
「……半分以上、本音が混じってる」

 ようやく呆れ顔の妹さん。つうか。

「名前、聞いてないんだが?」
「アンタも名乗ってないんじゃない?」
「そういえばそうだっけか。テキトーだなあ俺も。普段からあんまり名前を呼んだりしないしなあ。面倒だし」
「どんだけ面倒がりなのよ……」
「覚えるのが面倒。まあいいや、さっきも出てたが俺様の名前は武本陽介である。心して覚えるが良い!」
「なんでいちいち尊大な態度なのよ!?」
「なんとなく」
「なんとなく、って、はあ……もういい加減慣れてきたわ。瀬川遥よ」
「……瀬川美幸」
「一応聞いとくが、双子の姉妹、だよなあ?」
「そうよ。アタシが姉で美幸が妹。記憶が確かなら、ね……」
「ふむ……遥に美幸、な。いい加減姉のほう妹のほうと呼ぶのは失礼だろうから、覚えることにしようじゃないか」
「だからなんでいちいち不躾な態度なのよ……」
「なんとなくだ」

 まあ、世の中なんでもなんとなくですんだら、警察も神様も宗教も壷売りも必要ないんだがな。


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