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Remains/before story 07

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 出会いは偶然か、はたまた必然か。結果として見ると必然と言い切っても差し支えないのだが、俺自身は本人と面と向かうまでその可能性をすっかり忘れていたのだ。もたらされた現実に対し、一瞬惚けた顔をしてしまい、慌てて取り繕ったのは言うまでもない。

 それは、市立図書館での出来事だった。小学校に入学して以降、俺はなのはと共に結構な頻度で図書館に通っていた。“高町なのは”に文学少女なイメージはまったく無かったのだが、これも俺というイレギュラーがいるためかはたまた別の理由か、先述の通りなのはは結構本を読む。アリサとすずかが習い事でいなかったり、あるいは夜寝る前など、自分たちの部屋で背中を合わせて座りながら本を読んでいることが多い。大半は子ども向けの童話やらだが、ついうっかり読んでしまう俺の影響か、時折ルビは多く振られているものの、明らかに小学校高学年から中学生向けの小説なんかも読んでいた。小学一年生の所行ではない、と思うのだが、そのおかげで俺も傍目には違和感なく同じような本を読めるので、いつもの同一人物説の根拠になることを除けば、個人的によしとする。
 図書館に通う頻度は大体一週間に一回。夏休み中は少しその頻度が上がっていた。今日もなのはに連れられて本を返却してから、同時に新しい本を借りようと物色していたところだった。棚と棚の間を縫うように進んでは面白そうな本を探していると、少し高いところにある本を取ろうと、手を伸ばす車椅子に乗った少女を発見する。
 脳内でリリカル世界+車椅子+図書館=はやて、の計算式が成り立ち、思わず声をあげそうになってどうにかこらえる。知らない人にいきなり奇声を上げる不審な少年になることはどうにか避けられ、さてどうしたものかと逡巡しているうちに横からすっと動く人影。彼女が取ろうとしていた本を代わりに取って、彼女の両手に握らせる。

「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」

 言うまでもなく動いたのはなのはだった。関西弁、というよりも京都弁に近い柔らかいアクセントでお礼を言うはやてに、にっこりとほほ笑みかける。

「図書館には良く来るの?」
「ええ、私、足がこんなんやから、動けない変わりによく本を読むんです」
「わたしもよく読むんだ。ねえ、わたしの名前は高町なのは。あなたの名前は?」
「私? 八神はやていいます。本当ありがとうね、なのはちゃん」

 一瞬にして仲良くなる二人。名前を呼び合えば友達だと言っていた(画面の中で、だったが)だけのことはある。もっとも、この年頃の子どもといえば話したりなぐり合ったり魔法を打ち合ったりすればすぐ友達になれるのだが(最初以外は違うか)。

 二人でキャッキャし出す横で、はてさてこれは一体全体どういうことだと疑問の渦に突き落とされる。現時点で色々なことが、俺の知っている元々の話と異なってきている。記憶が確かなら、はやてと初めて出会うのはすずかだった。それも、タイミングはなのはがヴィータに負ける時くらいだったはずなので、二年以上早い計算になる。見たのが大分前の話なので怪しい部分もあるが、たしかヴォルケンリッターの覚醒は三年生時のはやての誕生日。こちらも二年余裕がある、と気づいたところで、もしかしたら初代リインフォースが助かる道があるんじゃないか、などと考えてしまった。原作では、再び防衛プログラムが生まれる可能性が高いことから、リインフォースは自ら消える道を選んだ。だけども、今から調べれば、何か策があるのでは……などと希望を抱いてみるが、よくよく考えれば魔法文化に触れることができるのは、あったとしても二年後の四月。ジュエルシードとユーノの登場まで待たなければならない。実際に何かを行うことができるのはたったの八か月。魔法からのアプローチしかないのであれば、原作同様時間切れの結末しかない。
 なんだかなあ、と浮かない気分でいると、ふとこちらを見つめる二組の視線に気付く。そういえば今は出会いイベント中だった。そのフレーズだけ字面で見ると、なんだか恋愛ゲームみたい。

「えと、この黙り込んでは百面相の愉快な人が、なのはちゃんの双子の?」
「う、うん」

 考え事をしていたときの内容がそのまま顔に出ていたようである。いきなりだがひどい言われようだ。

「なのは、ちょっとせめてもう少ししっかり肯定してくれよ」
「えっと、愉快な人の方を?」
「そっちじゃなくて!」
「冗談だよ。でも、さっきのなおとの様子だと、ちょっとフォローが難しいかな」
「表情がころころ変わるさまはまるで紙芝居のようやったよ」

 どんなさまだよそれ。というか表情を変えているつもりはなかったのに。考えてることが顔に出てるなら恥ずかしいのだが、それはそれとして、気を取り直してなし崩しに自己紹介。

「高町直人、なのはの双子の片割れです」
「私は八神はやていいます。よろしくな、直人くん」
「どうも、よろしくしてください」
「わざわざ口に出して言う台詞ちゃうからそれ」

 思っていた以上に関西人気質だった。小気味よいテンポでつっこみを入れてくれる人物は、過去にさかのぼっても片手で数えられるほどしかいない。

「……貴重だ」
「何がよ?」
「俺、関西人の認識間違えてた。駅のホームでも列に並ばない非常識な奴らが多いって思ってた……」
「なおと、それたくさんの人に喧嘩売ってるよ……」
「まああながち間違ってないと思うけどなー。大阪駅の三宮方面快速・新快速ホームなんか割り込まれた記憶しかないわ。こっちは車椅子で大変やいうのに」
「行ったことあるんかい」
「出身向こうよ?」
「ホンモノか」
「モノホンや」
「なんでいちいち言い直してるのかな……」

 ポンポンと言葉が飛び交うしゃべくり漫才を楽しみつつ、頭の半分はやばいどうしようどうすればいい、等とパニック状態に陥っている。先ほどの可能性の話もそうだしそもそもこの時点で出くわしていたらこの先の話は成立するのかどうかとか、もう麻痺してるってことはあの本もあるだろうし、もしかしてあの猫姉妹に見張られてるかもしれないああだったらこの時点でなのはの魔力に気づいちゃったりして時空管理局が出てきたりしないだろうないやそうなったら、などと途中から読点を挟む余裕すらない。
 一息ついて冷静に冷静にクールになれなどと落ち着かせて、気取られない程度に周囲を見回す。図書館内に猫はいないが、残念ながら人型バージョンの顔までは覚えていないし、そもそも見えなくなるような魔法を使われたらこちらからはわかりようもない。せいぜいこちらを伺っている人影がないことを確認できるくらいだ。よかった、なのはが連れてかれそうになったりしたら、多分大変なことになる、主に俺が。

「ねえ、せっかくだからわたしたちの家おいでよ。一緒に晩ご飯食べよ?」
「えと、ええのかな?」
「うん、大歓迎だよ!」

 またあれやこれやと考えている間に、いつの間にか晩餐会が開催される運びになっていた。おまけにてくてくと歩き出す(はやてはこぎ出す、か)ものだから、この後猫姉妹に追跡されるかもしれないことに対するフェイクを挟むことすらできず、「おーい、俺を置いていかないでくれー」などと情けなく縋り付くことくらいだった。

 道すがらはやてと話してわかったことは、まだ足の状態は「立ち上がれるけど歩くことはかなわない程度」であるということだった。実際に立ってもらったから間違いはない。そういえば、ヴォルケンリッターが出現してから進行が早まる、なんてことがあったから、時間軸を逆に戻せばましな時があったと考えてもおかしくはない。
 そして、やはり親戚縁者その他諸々、一般ならばはやてを養ってくれるはずの存在もいない。児童相談所はどうしてこんな小さな子が一人で生活していることに気づけないんだ、つうかそもそも小学校行けてないはずなのにそっちはどうなってるんだ。税金返せ、と言いたいが自らは払ってないしおそらく魔法の力でごまかせそうな気もするので致し方ない、ということにしておく。

 高町家に到着し、しばらく遊ぶことにする。さすがに家の中は車椅子対応の造りにはなっていないので、車椅子をガレージに置いて、途中のはやての移動はなのはと二人がかりとなる。「ほんま堪忍な」とはやては恐縮しきりだったが、本当に謝るべきは闇の書なので気にしない。
 例によって例のごとく、リビングでマリオカート64のバトルゲームで遊ぶ。普段本を読むかアニメを見るかゲームくらいしかやれないから、と本人が言うだけあって、かなりうまい。何というかその、実にいやらしいところにバナナと偽ハテナが置いてある。迂闊に角でドリフトしようものなら、そのままちゅっどーんと爆発して風船がなくなっていく。そういえばこの人将来隊長になるんだっけか。一発でかいので勝負をかけるタイプだとしか思っていなかったので反省する。
 ならこっちは緑コウラ当ててやるよ、と無駄に勢いづいて斜め、まっすぐを駆使して当てていく。なのははというと、逃げ回りつつ上から赤いのを降らせてくるのだが、時折事故ってたりもする。ようするに三者同じ実力。

「落ちろ蚊トンボ!」
「こういう奴は、生かしちゃあかんって……!」
「えっと、なおともはやてちゃんもわたしと同じマリオカートをやってる、んだよね?」
「なのはちゃん、そこは『まだだ!まだ終わらんよ!』とでも言ってほしいわ」
「えっと、でもわたしの方が風船多いし……」
「エゴだよそれはっ!ってああっ緑!?」
「こんなところにのこのこ来るから!」
「えっと、それってもしかしてノコノコと掛けてるの、なおと?」
「さすがにその発想はなかった、と声を大にして訴えたい」
「なのはちゃん、座布団一枚取って行き」

 こんな感じ。操作しているのがカートなのかMSなのかわからないが、少なくとも64にそんなゲームは出ていない、はず。
 しばらくして母さんが帰ってきて、お約束の紹介タイムを経て、また遊んで、みんな帰ってきて、一緒に晩ご飯をわいわいしながら食べて。あっという間に時間は過ぎていく。きっと人の体内時計は感情回路と直結していて、楽しいと感じるときには早回しをしているんだろう。一度目の小学校時代よりも、時間が過ぎるのが早い早い。
 ここまで来ると、母さんお約束の「夏休みだし、もしよかったら……」が発動して、はやても泊まっていく流れになる。部屋に案内しようとしたところで、父さんからちょいちょいと手招きが。

「直人、あの子ご両親は……」
「詳しいことはわからないけど、不幸があって今は一人で生活してるって。お金とかは海外に住む遠い親戚が工面してるみたいだけど」
「銀行のATMとかで子どもがお金を下ろせるんだろうか」
「うーん、そもそも手が届かないんじゃないかな。だから多分、現金書留で送ってるんだじゃないかな」
「……色々な部分で、おかしいところがあるな」

 父さんに指摘された部分は、おそらく視聴者であれば同じことを思っていることだろう。おそらくはやてでなければ生きていくことは不可能だ。
しばらく顎に手を当てて考え込んでいた父さんは、立ち上がって母さんと二言三言会話を交わした後、二階の階段を上がっていく。数分して戻ってきた父さんの表情はあまり優れない。

「今、彼女にもし良かったらしばらくうちで生活しないかと聞いてみたんだが、断られちゃったよ。ご両親の残した家を大事にしたいって。直人やなのはもそうだけど、最近の小学一年生ってこんなにしっかりしてるのか?」
「それを聞かれても答えにくいけど、でも、うん。時折はうちに来たらって誘ってみるよ」
「ああ、そうしてくれると助かる。本当はこんなこと、あってはならないんだ……!」

 珍しく語尾に怒気をはらんでいる父さん。おそらく、何かしら手を回せないか、などとも考えているだろうが、おそらく設定を考えると叶わぬことであろう。本当に、世の中は不条理だらけで、自らの力だけではどうしようもないことばかりだ。天涯孤独の身で生きることを強いられること。育児放棄もDVも合わさったような生活を強いられること。いくつかは設定上というご都合主義に押しつけられた部分もあるかもしれないが、そういう理不尽の下で、俺たちは生きている。怒ってくれる人がいるだけで、嬉しい。

 リビングを後にして部屋に戻ると、二人で仲良く喋っていた。なんだか女の子二人がきゃっきゃしている空間には、なかなかすっとは入りにくい。が、そんなの関係ねーと入っていく。

「なおと、何してたの?」
「ちょっと父さんと、その、四方山話を」

 ふーんとそれ以上突っ込まれることはなかったが、事前に父さんがここではやてに話をしてるわけだから、大体どんな内容かは言わずもがなであり、そもそも誤魔化す必要もなかったんじゃないかと気づいたのは後の祭りである。

「そういや階段大丈夫だった? ごめん、手伝えなくて」
「ええよ。なのはちゃんに支えてもろうたら階段も上れるよ」

 やっぱり、知ってる状態よりかは幾分まだ病状が進行していない。一度車椅子から降ろされたら立ち上がれないような状態だったら、一人だけの補助で階段を上がっていくのはしんどい。

「今日は本当ありがとう。あんまりこういうことないから、とっても楽しいわ」
「どういたしまして。こんどわたしの友達のアリサちゃんやすずかちゃんも呼んで、みんなでお泊まり会しようよ」
「……この部屋に五人とかだとさすがに狭いんじゃないか?」
「二人の友達だったら大歓迎やから、うちに来てもらってもええよ。空いてる部屋もあるしなあ」
「本当? なおとと一緒に、みんなで行くよ!」

 どちらにせよ、賑やかになること間違いなしなのと、こっちもカウントに入っていること間違いなし、である。まあなのはが行くんだったら必然的とも言える。

「それにしても……」

 まああれこれ準備がいるなあなどと考えてたら、はやてが思案顔。

「二人とも、あんまり私のこと、聞かないんね」

 ……ん?

「普通やったら、その、自分で言うのもどうか思うけど、なんで一人なの、とか聞いてくると思うんよ。いや、あのね、何となく聞かないでくれているってのはわかるし、すっごくありがたいんやけど、とっても不思議で」

 ……うん、そりゃそうだ。おかしい。確かにおかしい。まるで二人ともがわかったかのように行動をしている。そう、二人とも。二人とは、俺と、なのは。
 なのはの方を向くと、視線は合わなかったが曖昧なほほえみを浮かべているのがわかる。

「んとね、そのうちはやてちゃんが全部話してくれるかなって。聞いちゃうと、もしかしたら辛いこととかも話さなきゃならないでしょう? まだ、今日あったばっかりだし、ね」
「なのはちゃん……」

 流れてきた模範解答に感極まったのか、はやての目には少し輝くものが浮かぶ。
 だが、俺にとっては模範解答が用意されていることそのものが疑問となる。なぜなら、その立ち位置は“知っている人間”にしかとれないからだ。そもそも俺と同じように聞かなかったこと自体がおかしいのに加えて、これだ。たまたま聞き忘れてたのならば、解答が用意されているはずもない。気遣いができるといったって、小学一年生の思考回路にここまでできるとは思えない。
腹の底から、なのはに問いただしたい疑問があふれそうなところで、

「さ、はやてちゃん、お風呂入ろうよ。なおとも手伝って」

と切り出されて、考えが止まる。

「うん。……ん? 手伝う?」
「さすがにお風呂は一人じゃ無理だよ。はやてちゃんもいい?」
「ええよ、ご迷惑をおかけします」

 ポンポンと決まって、またこれか。どこにいったよ小学生の羞恥心は。
 もう既に二者の合意が得られている状態では何を言えるわけでもなく、なのはと二人ではやてを一階に下ろし、一緒に脱いで脱がせて(さすがにはやての下着には触れていない)、お風呂へ。先にみんなで洗って、湯船に浸かる。もうどうにでもなーれ。

「はあ、お湯に浸かれたの久しぶりや。普段は病院に入院中とかでないと、シャワーを浴びるくらいしかできんし」

 と、頭にタオルを乗せてはやて。そりゃあ、シャワーを浴びることすら大変だし、湯船に入って万が一があったら脱出もできないだろうし。

「普段は二人で入ってるん?」
「うん、まあ」
「ふーん」

 何その意味深返答。返しにくいことこの上ない。言いたいことはわかるが、その道は既に主にアリサが踏み荒らしている。
 そんな俺だけ微妙な空気のまま、上がって服を着替えて歯を磨いてそうしたらもう寝る時間。三人ならいけるかな、というなのはの意見が採用され、三人ともベッドで川の字。順番は落ちる方から俺、なのは、はやて。深い意味はない。

「私はじめてや、こうして友達の家で一緒に寝るなんて」
「はやてちゃん、いつでも泊まりに来ていいからね? なおともみんなも大歓迎だから」
「ほんまに?」
「あーほんまほんま」
「なおと、ちょっと返答が投げやりだよ……」
「ええよ、だいたい二人の性格はわかったし」
「どういうことだ、それ」
「二人とも優しいってことや!」
「……そいつはどうも」

 クスクス笑われている気がするが気にしない。みんなが、なのはが楽しいならそれでいい。
 電気を消すと、途端に眠気が来る。結局風呂に入る前の疑問点はどこにもぶつけられないままだが、とりあえず頭の片隅にセーブして奥にとどめる。

 おやすみなさい。良い夢を。


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