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Rewrites/01

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 普通じゃない、ってことは、大事なコトを失い、代わりにかけがえのないモノを手に入れたあの日に知らされた。それ以来、みんながどれだけ私のことを思って否定してくれても、心の片隅を占めて片時も離れてくれることはなかった。仮初の記憶によって形成された人格、それはオリジナル……アリシアとは異なったものになったにもかかわらず、私を私として位置付けるには少しだけ頼りなかった。
 宙ぶらりんな存在。”人”と同じとはいっても、自然の摂理から生まれたわけではない、人造の”人”。
 そんな私に、生きていることの実感を与えてくれるのは、家族となってくれた母さん、兄さんであり、親友となってくれたはやてやアリサ、すずか、ヴォルケンリッターであり、頼りない私についてきてくれたエリオやキャロ、ティアナ、スバルをはじめとする六課のメンバーであり、そして。

 私の自慢の娘であるヴィヴィオ、それから、大事な、本当に大事な、“友達”……なのはだった。

 私に、友達という概念を最初に教えてくれたのは、間違いなくなのはだ。だって、私の初めての友達はなのはなのだから。名前を呼びあって、そして互いにリボンを交換したあの日から、私はなのはと共に生きてきた。なのはを守るために生きてきた。
 その“友達”は、いつの間にか“友達”ではなくなっていた。私の抱く感情が、実は友達のソレではないものだと知った時、ああ、やっぱり自分は普通じゃないんだな、と理解してしまった。普通じゃない上に、普通じゃないことを考える私は、それでもなのはと一緒にいたくて、その普通じゃないことを、なのはが受け入れてくれた時、私はようやく、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンとしての私を位置づけることができたのだ。

 幸せ、だった。



 ***



 目を覚ました、という表現が正しいかはわからないが、他に代用するものも見当たらないのでとりあえず“目を覚ました”直後の私は、直前に起きていたことと今との乖離が激しすぎて、正直頭を回していた。たとえ阿吽の呼吸で意思疎通ができるといっても過言ではないなのは相手に説明をしたとしても、おそらく伝わることはない。死んだと思ったらなぜだか目を覚まし、痛みを感じることなく、おまけに液体の中に浮いていた、なんていう実に非現実的なことを話したって、心配されはしても信じられることはない。当事者である私ですら、この状況を持て余しており、いかんともしがたい状況に追い込まれているのだから。
 いったいどういう状態になっているのか、目を開けても痛くない上に呼吸もできている不思議な液体(少し黄色がかっている)の中で確認すると、私は一糸まとわぬ状態で身を抱いていた。五感が追い付いてくると脳の働きもましになるのだろう、途端に羞恥心が脊髄を駆け上がってくるが、どこかに感じる違和感がそれをぎりぎりのところで押しとどめている。
 まず、身体が小さい。二十歳を迎えて幾年(設定上は、だが)、と言われても誰も信じないだろう。手も足も短くなって、自慢するわけではないがそれなりには豊かであった双丘は、ただなだらかに下へと落ちていって、おまけにその先、なかったはずのものが小さく鎮座せしめていた。小さい頃のエリオと一緒にお風呂に入っていた時に見慣れたアレである。女性の体にはないはずの、男性器。一回収まった混乱が再度音を立てて頭の中を駆け巡るが、混乱してもいられないので、執務官としての経験をフル活用して、またもやぎりぎりのところで押しとどめて自分の体を観察していく。
 結論から言うと、小さな子どもの体、しかも男の子の体に私はなっていた。こうなってくると自分の顔がどうなっているのか気になるが、あいにく周囲を見回しても鏡のように反射してくれるものはないので、仕方なく保留にする。身体の観察以外にはやることがないので、一体全体何がどうなって今の私がこの身でここにいるのか、解答が出てきそうにもない問題に取り組むことにする。

 記憶を少し巻き戻すと、仮面を被ったあからさまに怪しい集団に、バリアジャケットすら維持が難しいAMFの濃度下において、本来禁止されているはずの質量兵器――地球では警官が持つことでおなじみの拳銃により、銃弾の嵐を受けたところになる。自分でも冷静なのが不思議だが、どうやら私は死んだというよりも殺された、らしい。さらに少し前にさかのぼると、珍しく一人での捜査命令が上から出てきて、何も考えずに私は指定された研究所に向かっていたわけだから、誰かの恨みを買ったかあるいは他の事情かは今となっては知る由もない(もっとも、局を取り巻く状況と手のかかり具合からすれば後者だろう。本局の執務官、ハラオウン家の娘、クロノ提督の義妹、このあたりを客観的に考えれば、どんな理由のクーデターだろうとターゲットとしては私はこれ以上ない的となる)が、何らかのルートで私を殺せと指令が出ていたのだろう。家を出る直前、なのはとヴィヴィオにものすごく心配されたのに、この結末である。二人の言葉通りに動いていれば、こうはならなかったかもしれないが、結局こうなっていた可能性も高い。二人を巻き込まなかった分だけ良しとすべきだろうか。そういうことにしておかないと、割り切りができなくなる。
 それにしても。本当に死んだあるいは殺されたかは定かではないが、身体が縮んだ上に性別も変わったとなれば、おそらく最愛の人と最愛の娘にはもう会えないであろう。ここがどこだかわからない上に、時間の経過すらあいまいである。仮に会えたとしても自らをフェイト・テスタロッサ・ハラオウンと同一だと主張できるほどの材料は、自らの記憶のみであり、出来事を時系列に並べ立てたとしても、管理局内でそれなりの権限を持っていれば容易に閲覧することができるものである。
 ゆっくりと、身体を絶望が支配していく。私を私と位置付けるものがいない、それはすなわち自らの生きる意味を失ったに等しい。なら私は、この状態で何をすればいいのだろうか。死んだか殺されたかはわからないが、ともかくおそらく一回死んだ上にもう一度死に場所を探す必要があるかもしれない、などと考えると馬鹿らしくなってしまう。

 とりあえず。とりあえずここから出よう。この液体の外に飛び出したら、もしかしたら身体が朽ち果ててしまうかもしれないが、その時はその時である。現世ではない場所で、なのはとヴィヴィオを待つだけである。
 残念ながら手元にバルディッシュはない。だが、この身体にもちゃんとリンカーコアはあるようで、まだ試していないがおそらく魔法は使える。というか、もともとの私とほぼ同じ感じである。もっとも、制御に失敗すると、下手に私そのものだった場合変換資質によって液体につかってる自分自身が感電しかねないので、慎重に自己ブーストのみに割り振る。一二の三でこの容器を殴ることにしてカウントスタート。一、二の……

「……目が、覚めたのね」

 三と行く前に、遠いところから声が聞こえる。よくよく目を凝らすと、外側に長髪の人物がこちらをうかがっているのが見える。どうやら液体のせいで音による距離感覚がずれているようだった。気づくのが遅れてあわてて警戒するが、どうもこちらを急にどうこうしようという気はなさそうである。

「フフッ、ついに成功したわ……」

 それどころか、その声は、遠い昔に聞き覚えのある声で。声の持ち主は徐々に近づいてきて、その姿を鮮明にしていく。
 ……どおりで聞き覚えがあるわけだ。

「……私の、私の大事な……」

 間違えるわけがない。この声は、私を“生み出した”、その人以外にいない。

「アリシア」

 妄失にとらわれたまま虚数空間へと落ちて行ったはずの、私の母、プレシア・テスタロッサが、記憶よりも幾分若い顔で、私を“また”アリシアと呼ぶのだった。



 ***



 培養液の外に出されて以降、おおむね私の記憶と同じように出来事が進んでいく。
 フェイトと名付けられ、リニスにいろんなことを教わり、そしてアルフと出会って使い魔になってもらって。懐かしいアルトセイムでの日々が、今手元にある。
 それはまるで、自分の人生を巻き戻して再生し直しているようであった。初めは何らかの理由で過去に戻ったんじゃないかと思ったが、そこは残念ながら私の体になかったものがあることが、そうではないことを教えてくれる。さながら、パラレルワールドに迷い込んだようだった。
 幾分時がたつと、私は今の状況を前向きにとらえるようになる。これはきっと、どこかにいる神様があっけなく死んでしまった私のことを不憫に思い、最期の夢を見せてくれているのだ、と。違うのはわかってるのだが、そう考えた方が楽でいい。それならそれで自分自身出来ること、やりたいことをやっていこうという気にもなれる。神様だとかの概念はオカルト的なものを余り受け入れていないミッドチルダにはなかったものだが、地球で過ごした、特にその中でも宗教に関しては割と自由な日本で育った私にしてみれば、割と神様というのは身近なモノだったりする。もっとも、本当に神様がいるのならこんなことに私を巻き込ませなければよかったのにと愚痴をこぼさずにもいられない。

 それで、この状態でやりたいこと。不本意というかなんというかだが、割り切った後の私は、あっさりとある欲望を目標地点に設定することにした。ソレは、元の状態ではそのままじゃできなかったことであり、今のこの状態なら何の不自由もなくできることである。声に出すのはさすがにはばかられるが、まあそういうことである。正直に言うと、時折、男だったら良かったのになんて考えたことはある。自分自身が性同一性障害者だとは思っていないが、なのはとの関係は、自分の性別がもし違っていたら、誰の目から見ても祝福される状態になっていたことだろう。人目を盗んで(のつもりだったが、はやていわく「そんなこと思ってないやろ?」とのこと。加減は難しい)の、一般的な友情とは遠いところに位置してしまった関係は、たとえミッドチルダであろうと地球であろうと歓迎されないものであった。
 ならば。今のこの状態なら、そして、この先起こることが培養液を出て以降と同様、私の知っているものであるならば。

 私は、あり得ないはずのrewriteを行えるのだ。夢の中だってかまうもんか。
 なんだか、初めて“具体的な”目標、といえるものを持った気もする。



 魔法を使う訓練を繰り返す日々が続いてしばらく。リニスからようやくバルディッシュを受け取る。久方ぶりの感触はしかし、手に幾分なじまない箇所もあった。

「リニス、この中央の青い宝石みたいなのは……?」
「私もよくわからないのですが、プレシアから、生まれたときにまるで貴方を見守るように現れたものと聞いておりまして、必ずデバイスに組み込むように、とのことでした」
「ふうん……」

 ……聞いてみたものの、実は見覚えがある。というか、どう見てもジュエルシードなのだ。ご丁寧に20のナンバリングまで施されているそれは、JS事件以降お守り代わりになのはから渡されて大事に持っていたものに違いない。そして、私が殺されることとなった間際も、間違いなく握りしめていたものでもある。
 もしかして、ジュエルシードが私の叶わないはずの願いを叶えてくれたのだろうか。バルディッシュにつけられたソレは、かつての禍々しいまでの魔力を放つことはなく、ただ穏やかに、淡く光を放つだけである。

「ロストロギアのようなんですが、安定はしています。バルディッシュと組み合わせるとなぜか魔力ブーストがかかるようでして……フェイト、試しにバルディッシュを使ってみてください」
「わかった。行くよ、バルディッシュ」
『Yes,sir. Set up』

 起動させた瞬間、私の魔力と、バルディッシュというかジュエルシードの魔力が合わさり、とてつもない奔流が生まれる。だが、決して扱えないというわけでもなく、少し制御するだけで自分の支配下にすべて置くことができた。相性がいいのだろうか、ジュエルシードの魔力も、まるで自分のもののように感じられる。

「すごい……フェイト、あなたの今の魔力はS、いえ、もしかしたらS+かもしれません」
「これもバルディッシュのおかげかな」
「Thanks,sir」
「バリアジャケットも似合ってますね。苦労してデザインした甲斐がありました」
「あははっ、ありがとうリニス」

 以前のこのころの私は、今から思うと結構恥ずかしい薄手のレオタードのようなバリアジャケットだったが、さすがに男の子でそれはありえなかったのだろう。マントは変わらないが、上半身は黒地のワイシャツに赤いネクタイ、下半身は黒いズボンである。どこかの学校の制服のようだったが、そこはバリアジャケット。今の魔力量もあって、それなりの防御性能の上に前と同じ高速機動向けのスピード性能も両立できている。

「うんうん、本当似合ってるよ、フェイト」
「アルフもありがとう。ちょっと試しに魔法を使ってみようかな」

 リニスが的としてスフィアを空に浮かべてくれる。

「バルディッシュ、行くよっ!」
『Photon lancer.Get set.』

 射撃魔法の射出。それは、魔力量から予測できたとはいえ、かつての私よりも遥かに大きな威力をもって、スフィアを文字通り粉砕する。

「構成に問題なし、発動時間も文句なし、速さ威力ともに申し分なし。現時点でも管理局の指標でどのランクになるのかが逆に知りたくなりますね」
「あ、あはは……」

 制御に関してはもともと長年の経験がある上に、今の魔力量の多さを考えたら、ランクでもS+、広域殲滅魔法を覚えたらはやてと同じ総合SSくらいになるかもしれない。おまけにはやてよりも並列処理ができるわけだから、自分で言うのもなんだがチートじゃないだろうか。子どもの頃なのはの家でやったRPGに「強くてニューゲーム」があったが、まさに気分は同じである。もっとも、適正は以前と変わらないので、広域殲滅魔法を使いこなすのは難しいだろうし、なのはのスターライトブレイカーだってやってやれなくはないだろうが、収束スキルのない私には時間が掛かりすぎて実用性に欠けるだろう。
 今度は複数の的をリニスに出してもらう。同じように、こちらもスフィアを複数生成して浮かべる。以前は複数のスフィア生成には時間が掛かっていたが、この身体だとあっという間に作り出すことが出来る。

「Fire!」
『Multishot.』

 詠唱と共に、複数同時射撃魔法を放つ。こちらも先ほどの単発同様の威力であり、魔力増化の恩恵を直接受けた形となっている。この後も移動魔法や防御魔法等も試しに使ってみたが、作動時間や効果の向上が見受けられる。これならなのはのシューターくらいなら完全に防御できそうである。バスター以上は試したくもないけども。
 そんなわけで、リニスとの魔法訓練は文字通りあっという間に終わってしまった。というかさじを投げられた。

「私には魔法に関してはもう教えることなんてありませんよ……」

 半分いじけモードなのだが、どう声をかけていいのか私には分からない。まさかかつて貴方に教わったことがあるんです、というわけにもいかないし。
 と、いうわけで。

「まさか私が教えることになるなんて……」

 まさかの母さん登場、である。リニスが泣きついて「プレシア、あなたしかいないんです!」と説得したのが功を奏したのかどうかは定かではないが、一度目の人生ではあり得なかった状態がこうして私の前に現れている。

「まあせいぜい私の為に覚えなさい。極大魔力の制御が完璧に行えれば、フェイトの苦手な遠距離からの砲撃や殲滅も、その魔力で無理矢理使うことが出来るわ」
「はい、母さん」

 こうして、限定SS直伝の魔力制御を教わることになる。
 実は、母さんには早い段階である程度の話をしている。とはいっても、まさか再度生まれ直しただとかは絵空事になってしまうので、最低限「貴方の直接の子どもではなく、アリシアのクローンであること」「そして、アリシアを蘇生させることには力を惜しまないこと」だけである。女の子としてのフェイト・テスタロッサはアリシアにそっくりだったが、さすがに性別が違うせいか男の子としてのフェイト・テスタロッサは、母さんに早い段階でアリシアとは全く違う人物だと認識してもらえた。その上で、背後関係すらある程度わかっているわけだから、母さんにすれば以前の私よりも使い勝手のよい手駒になる、という寸法である。アリシアの蘇生に助力する理由は、もしかしたらできるかもしれない可能性にかけてみたいということ(なんといっても姉、なのだ。実態はクローンの元と先という違いがあるとはいえ)と、この先の出会いがあることを願っての打算である。その関係性は、母と息子、というよりも上司と部下もしくは悪巧みする運命共同体に近い気もするが、それでも母さんに近づけるわけだから、悪い気分ではない。鞭で打たれることもなければ、ヒステリックに蔑まれることもないのだし。
 そんな、良好とまでは行かないまでも、まだましな“親子関係”。でもさすがに、次元跳躍魔法まで教えるのはやりすぎじゃないかな。あと、母さんにアドバイスをもらったらブレイカーの威力がなのはと同じくらいになったのもやりすぎじゃないかな。そしてドーピング有りでようやく追いつくなのはの砲撃って反則技じゃないかな。昔(昔、という言い方が正しいかは置いておく)、いくら非殺傷とはいえスターライトブレイカーを受けて死ななかった私は、よくやったほうじゃないかな。



 そんなこんなで、あっという間にあの年がやってきた。それまで時折別世界に移動してロストロギアを集めては、アリシアの蘇生に使えるか母さんと試してみての繰り返しだった。残念ながら、私が成長するまで、との契約だったはずのリニスは、「もう少し面倒を見て頂戴」と母さんから頼まれてまだ私達に色々と(リニスの教えられる範囲で)教えてくれる。このあたりはすでに私の知っている歴史とは異なっているのだから、この先に起こるはずのことも、もしかしたら変わっている所があるかもしれない。

 そんなある日。母さんから次の指令が下される。

「フェイト、いい? ジュエルシードというロストロギアを載せた搬送船が、何らかのトラブルでその積み荷を落としてしまったらしいの」

 ジュエルシード。アリシアを蘇生できるかもしれない可能性を秘めたロストロギア。それよりも大事なのは。

「落ちたのは、第97管理外世界、地球というところよ」

 そう、地球。海鳴市。

「これは管理局に敵対する可能性が少ないチャンスよ。アルフと二人で取ってきて頂戴」
「わかった、母さん」

 そこにいると思われる、私の、最愛の人。ああ、ようやく会える。

「行こう、アルフ」
「あいよ!」
「気を付けてね、フェイト、アルフ」
「ありがとうリニス。じゃあ、行ってきます」

 もう一度、あの出会いを、私にください。


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