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MemoriesOff1・2/Refrain

「健ちゃん……」
「……」
「……ねえ健ちゃん!答えてよ!!」
「ほたる、僕は……」



 無言。沈黙の間。
 これが、健ちゃんと私の間にできてしまった、底のない溝。

「私はこんなにもけんちゃんが好きなのに!!」

 これは嘘。もう自分で気づいてしまっている。この言葉に気持ちがこめられていないことを。
 そして、健ちゃんもまた気づいている。

「ほたる……ごめん」

 それだけ言い残して、健ちゃんは去ってしまった。
 寂しすぎる答えに思わず耳を疑うが、でもやっぱりと思い直してしまう。

 私たちの間に何が起きてしまったの?それは、明白。
 私が健ちゃんのことを疑ってしまったから。
 私が作った綻びが、全てを壊してしまった。

 あれほどまでに充実していた二人の時間も今、この手元にはない。
 わかっていても、それが悲しくて。

 いつまでも二人、あの雪の登波離橋から始まった恋の眩しさを持っていられたらいいのに、時が流れることに輝きを失ってしまった。
 どんなに健ちゃんのそばにいたいと思っていても、私が健ちゃんを疑ってしまったが為に、二人の恋物語はこうして終焉を迎えてしまった。

 まるで今の私の心模様を表しているかのように、夏特有の雨……夕立が激しく降り出した。途端に人の通行が消え、街は一時の廃墟と化す。おぼつかない足取りで、近くの店の軒先まで歩き雨宿りをする。ほんの数時の間に、服の奥深くまで濡れぼそっていた。夏だというのに寒気がしてくる。
 それは、健ちゃんがそばにいないから、ということもあると思う。

 やがて雨はやみ、雲の隙間から日差しが差し込んでくるとともに、街は輝きを取り戻す。雨の振る前のように道を人が行きかい、まるで夕立などなかったかのごとく街に活気が戻ってくる。
 こんな風に、こんな風に私と健ちゃんとの間も時の流れが全て拭い去ってくれればいいのに。
 でもそれはもう、かなわない。

 今のような一人ぼっちの日々をいつか乗り越えて、再び愛せる人が現れたとしたら。
 私と健ちゃんとの間にあったようなあの暖かい空間を、まばゆい時間を、また持つことができるのかなあ?
 人はいろんな出会いを繰り返して、強くなっていくって言うけど、ならば私と健ちゃんの恋物語も無駄じゃない終焉ってことになるのかな?
 それは寂しい。
 寂しい、けど……もうこれは現実。

 なら。
 終わってしまった恋物語だということを理解して、私は次へ進まなければならない。
 この先海外留学、そして私の夢への険しい道のりが待っているのだから。

 これから先歩んでいく中で、健ちゃんのような、私が愛せる人ができたとしたら、その時は出会えた喜び、眩しさを忘れないようにしよう。
 そうしたら、ずっとずっと好きでいられるのだろう。
 いろんな誤解や問題も、きっと乗り越えられるのだろう。
 健ちゃんとの間では、できなかったけど。
 次こそは、という言葉は嫌いだけど、でも……
 

 新しい恋の歌が奏でられれば、今までのことも全て乗り越えられるのかもしれない。健ちゃんとの別れも、その一点として。そして、そう捕らえられるようになったら、また健ちゃんとお話できるようになれるかなあ?
 きっと、できる。
 だからその時まで……

 バイバイ、健ちゃん。