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kanon/桜と

 少し先に、桜が咲いていた。
 桜という花は不思議なもので、日本人になら確実に通用するであろう美を備えている。それは見るものに和みを与え、美しいものという認識を与える。

 高校の通学路の途中、普段とは違う道で来てみたら、知らない家の庭先で一本の見事な八重桜が優雅に咲き乱れていた。いわゆるソメイヨシノの並木の整然とした美しさではない、孤高の美、といったところだろうか。この桜を植えた人物には、かなりのセンスが備わっていたのだろう。もっとも幹の太さから推測される樹齢やらなにやらから、植えた人間は何世紀か前の人間であろうが。顔を臨めないのが残念だ。

「綺麗な、桜ですね」

 途中に一拍おいて、並んで歩いていた天野が感じ取ったことをそのまま口にする。やはり、誰もがこの桜には感慨を抱くのだろうか。
 腕時計を見やる。この先の道のりと相談した結果、ここで少し花見としゃれ込んでも問題はなさそうだった。桜の下までやってきて、歩みを止める。

「確かに、これはすごい」

 花々の重みで、枝がしなって塀を越え道に乗り出している。手を伸ばせば触れられる高さだ。

「綺麗です、本当に」

 天野は天野で、完全に見入っていた。瞳の中に、桜しか映っていないようだ。
 俺も、無言でその壮麗さに見とれることにした。


「祐一さんは知っていますか?桜の木の下に埋まっているもののことを」

 始業時間が近くなり、名残を惜しみつつ再び歩き出したところで、天野はそう聞いてきた。

「……あれだろ?埋まっているのは、ずばり人の死体だ」
「珍しいですね、祐一さんが知っているなんて」
「失礼な奴だな。それくらいは俺でも知ってるさ」

 その言葉を聞いて一瞬微笑を見せた後、天野は再びいつもの表情に戻った。

「何で、そんな噂が流れるようになったんでしょうか?人の屍を肥やしとしているから桜の花は絶妙なピンク色に染まるなんて」

 顎に手を当て考え込んでいる。どうやらふと気になったことが脳裏にこびりついて離れない螺旋に陥ったようだ。

「さあな……」

 俺も同じ格好をして考える振りをする。
 顎に手を当てて考え込む高校生の男女1組。なんとなく、微笑ましいようでシュールだ。

「桜ってものがさ」

 先に思いついて、俺は自分の考えを述べてみた。

「桜が、日本人にとって一番身近な花だからじゃないかな。それだけ、死後桜のある世界にいたいから、逆説的な表現として、死体が桜に寄り添うと」
「祐一さん……春ボケですか?」
「失礼な奴だな……ふと、そう思っただけだ」

 ふっと風が吹き抜け、俺たちを薄ピンクの花びらが追い越していった。

「だとすれば……あの子たちも、この桜の美しさをまた見ることができるんでしょうか?」

 遠くを見る眼。そこに映る奴らが、俺の目にも見える。

「……だろ?でなきゃ、もったいない。こんな美しいもの見れないなんて。情操教育にぴったしなのに」

 それを聞いて、天野は再び小さく微笑んだ。