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AIR/セミ

 みーんみんみんみん……

 近くの木々から、アブラゼミだかミンミンゼミだかが激しく夏のおたけびをあげている。

 みーんみんみんみん……

 まったくもってうっとおしいことこの上ない。人がようやく労働という名の地獄から帰還して、こうして文明機器(というか扇風機)の前でくつろいでいるというのに……

 みーんみんみんみん……

 女三人かしましいとは昔の奴がよく言ったものだが、セミ三匹のほうがよっぽどかしましい。

 みーんみんみんみん……

 ほら、こうして人が状況説明をしてい……

 みーんみんみんみん……

「だーっ!!人の地の文を奪うなっ!!俺の活躍の場所がなくなるっ!!」
「往人さん、セミと張り合うなんてむなしいよ……」

 人がたかが地上七日間の生命達に喚き散らしていたら、後ろから実にさぶい突っ込みを返す奴が現われた。

「うるさい観鈴!!たかが効果音4に主役が出番を奪われるなんてありえないっ!!」
「たかが効果音4って……ちゃんとセミさんたちだって、精一杯声をあげてるんだよ?そっとしてあげなきゃ」
「やけにシリアスだな……」
「だって、セミさんたちは7日間しか生きられないんだもん」

 どうやら、同じ命題から得られる結論が、俺と観鈴とではまったく別のものになるらしい。

「観鈴……どうやら俺達は相容れられない運命にあるみたいだな」
「セミさんについての感じ方が違うだけなのに、どうしてそんなに大げさにするかなあ……」

 ぽこっ!!

 何となくむかついたのでとりあえず叩いとく。

「が、がお……」

 あ、痛そう痛そう……
 ちょっぴりだけ罪悪感を感じた気もしたので、握りこぶしをほどいて、手のひらをそっと観鈴の頭におく。

「まあ、あんましセミの生死について考えるな。じっと土の中で生きつづけて、最後のちょっとの時間だけ外に出られる。人が聞いたら同情しそうだが、でもそういった生き方を長い年月をかけて選んだのがセミなんだ。だから同情するほうがいけないんだ。観鈴だって生き方そのものに同情されたって喜ばないだろ?それと一緒だ。あ、頑張ってるな、それだけ思ってやりゃいいんだ」
「……」
「今いいこといってるなって思ったろ?」
「その一言で台無し……それに話がすごい強引だし」
「気にするな。それより腹減った。飯、飯!」
「わ、わかったよ往人さん……お昼ラーメンでいい?」
「ああ」

 みーんみんみんみん……

 なおもセミは、元気に夏の声をあげていた……