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AIR/風船

「往人さん往人さん」

 とあるけだるい夏の昼下がり。観鈴が後に手を組んで俺に話し掛けてくる。間違いない、何か厄介事を持ち込んでくる気だ……ならば。

「観鈴さんや昼飯はまだかいのお?」
「先ほどラーメンセットを食べましたよ往人おじいちゃん」

 ……観鈴のくせにあっさりかわしやがった……

「そうじゃなくて往人さん、お願い事してもいい?」
「嫌だといったら?」
「明日からは庭の雑草を食べてね」
「人間芝刈り機か俺は……」

 ……悲しいかな俺は居候。拒否権はやはり設定されてないらしい。

「で、なんだ?その頼みごとって」
「これをね、膨らませてほしいの」

 そういって観鈴が差し出したのは、赤やら黄色やら青やらの、実に色とりどりな風船たちだった。

「ちゃんとあったところにばれないうちに返しとけよ」
「盗んだものじゃないよ……これはね、さっき雑貨屋さんのおばさんからもらったの」

 なぜにもらってくる……?いまどき風船を渡すおばちゃんもおばちゃんだが。

「まあいろいろ突っ込みどころがありそうだが……風船なんか膨らませてどうする気だ?一人寂しく風船バレーでもやるのか?!

“そーれ♪”

“はーい!”

 ……夏なのに寒いぞ、観鈴」

「ちょっと惹かれるものがあるけど、今日はしないよ」

 晴子にいって再教育してもらおう。観鈴の先行きが、非常に不安だ。

「風船を、ぱーんって針で割るの」

 ……もっと上の問題お遊びのほうに惹かれていたらしい。

「それって俺の膨らまし損だろうが……」
「そんなことないよ?往人さんの貴重な労力は風船が割れた瞬間に輝くの」
「……それを、無駄って言うんだが?大体なんで風船を割りたいなんて考えたんだよ……」
「うーん。なんとなく」
「なんとなくってなあ……だいたい割ったら風船がもったいないだろ?」
「そんなこと……ないもん」
「どこの駄々っ子だお前は……まあいいや、ちょっと風船もってこっちこい」

 とりあえず、外に連れ出す。ここで再教育しとかないとな……

「ほら、風船を一個よこしなさい」
「はい往人さん……って、その右手に持ってるガスボンベみたいなのは?」

 観鈴に鋭く指摘されたので、とりあえず俺も視線を右手に向けとく。というか、何もってるかはわかってるけど。

「何を言ってるんだ観鈴。見てのとおり携帯コンロ用プロパンガスじゃないか。家の外壁がダンボール~な方たちの貴重な火元だぞっ!!?」
「そうじゃなくて、どうするの?」
「もちろん、風船を膨らませるのさ」

 そして俺は、風船の中にプロパンガスを満たしていく。すぐに、風船はきれいなラグビーボール型となる。

「ほれっ、ちゃんと持ってないと飛んでくぞ?」

 観鈴に、飛ばないように慎重に手渡す。が……

「……えい」

 見事に、手を離しやがった。てか、飛ばしたかったんだろ絶対……
 だが。

 ぽてん……

「この風船飛ばない……」

 観鈴の手を離れた風船は、さも重たそうに、ぽてんと地面に落下、転がっていく。

「そりゃそうだ。プロパンガスは空気より重いからな。はっはっは、引っかかったな観鈴」
「が、がお……」

 ……観鈴の無知振りを改めて確認したところで、俺は胸のポケットから人形……わが愛すべき人形とはまた別の、やっぱしぼろっちい人形と、マッチを取り出す。……なんてマッチなんていうレトロなものをもってるかは内緒だっ。
 でもって、マッチに火をつけて、人形の頭にさす。

「観鈴、風船から離れてろよ」
「?」

 疑問符を浮かべながら観鈴がそそくさと後ろに後退。続いて俺も下がる。そうこうしてるうちに、マッチの炎が人形に燃え移る。そろそろ頃合か……

「……」

 人形に念を送り、動かす。その目標は……もちろん風船。
 あと3歩、2歩、1歩……

 バーンッ!!

 実に見事な破裂音。

「いいか?観鈴。風船を割るならこんくらいにしろよ?」

 俺は笑顔で、観鈴に言い聞かせた。

「往人さんって、やっぱり悪い人だよね」

 観鈴も、すばらしい笑顔で返してきた。
 あたりに、若干のガス臭が漂う……

「な、なにがあったんやーっ!!?」

 ナイスな風船の爆発からわずか数分後、バイクを飛ばして晴子が帰ってきた。……仕事はどうした?

「観鈴とちょっとした実験をしてたのさ。なあ?」
「うん、往人さんがガス爆発を教えてくれたの」

 ごっ!!

 次の瞬間、鉄拳制裁。

「うぐぅ……」
「どこかのキャラとかぶるうめき声あげんといて!!まったくこの居候は余計なことを……」

 などと呟きながら、晴子が俺に何かの詰まったボンベを手渡してくる。

「これは?」
「水素」
「……晴子も爆発させたいのか?」
「んなわけあるかっ!!これだったら、風船が空跳ぶやろ?」

 何で水素なんかもってるんだ?とかはさておき、仕方ないので水素で風船を膨らます。……どこかで爆発とかしないだろうな?

「……さてはヒンデンブルク号の二の舞をっ?」
「そんなはずないから、はよ膨らましぃ……」

 なんかあきれられてるが、まあ気にしないでおく。
 すぐに、風船が膨らむ。
 俺からそれを受け取った晴子は、観鈴にさらに渡す。

「ほら、観鈴。風船は割るもんやない。飛ばすもんや。ほらっ、飛ばしてみ。空の果てまで飛んでくからな」
「……うん、わかった」

 観鈴の手を離れた風船は、ふわふわと宙に浮かんでいく。

「うわあ……飛んでった……」

 感慨深げに呟く観鈴を見て、晴子は満足そうな顔をしてから顔をそらす。

「そうやろ?風船はこの飛ぶ姿がきれ……」

 バーンッ!!

 炸裂音。

「あーあ……また割れちゃった……」
「いっとくが、風船が電線に引っかかって感電、爆発しただけだぞ?俺は何もしてない。ちなみに、電線が切れて非常に危ないんだが?」
「……ま、そういうこともあるわな」

 ……問題を起こした張本人は、何事もなかったかのようにバイクにのり、颯爽とどこかへ消えてしまった。

「観鈴、風船は、危ないな。もうやめとこう」
「そうだね、往人さん」

 しばらくして、雑貨屋の店頭から、風船が消えた……