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CLANNAD/Missing,and……

 私は、気付いていた。
 自分が、如何に卑怯だったか。

 見て、見ないフリ。
 気付いて、気付かないフリ。

 とくん。
 とくん。
 血液の循環装置が、強い音を立てて稼動する。

 そう、私は知っていた。
 姉が、彼のことが好きだということを。
 彼のことを話す姉の姿は、実に生き生きとしていた。
 たとえそれが、くだらない日常会話だとしても、声に張りがあり、姉の想いが幾度となく伝わってきた。

 そして、その姉の話から彼のことを聞いて、気になる存在となっていった。



 あれは2年のときだったろうか。
 たまたま姉に用があり、クラスに入っていこうとしたとき。
 姉と仲良く話す2人組の男子生徒の姿があった。
 聞いていた話から推測。金髪の方が春原くん。
 そして。
 もう一人の方が、岡崎くんだった。

 見て、納得した。
 ああ、姉はやっぱりこの人が好きなんだな、と。
 あの人のそばにいる姉は、実に満ち足りた表情をしていた。

 その岡崎くんは、不思議な人だった。

 ころころと変わる表情。
 砕けた物言い。
 そして、内側に見える影。

 本当に、不思議な人だった。

 私は3人の談笑姿を眼にして教室の入り口でしばらく立ち止まり、そして姉への用を忘れて自分のクラスへと戻っていった。

 気持ちが自分でも驚くほど高ぶっていた。

 とくん。
 とくん。
 血液の循環装置が、強い音を立てて稼動する。

 ああ、私はやってはいけないことをやってしまったのだ。

 姉が好きな岡崎くんを、一目見ただけで好きになってしまっていたのだ。



 それ以来、姉の話を聞くたびに想いが募ってしまっていった。
 それは、姉に悟られてはいけない、秘密の恋心。

 でも、結局明かしてしまったのだ。
 自分の、想いを。

 姉への牽制球として。



 あの日から、姉は私のことを応援するようになった。
 そしてそれは、3年になり、私と岡崎くんが同じクラスになってからより強くなった。

 姉が心の内を隠して、本心を偽って私を応援してくれているのはわかっていた。
 だけど、私は便乗してしまった。

 私は卑怯だったのだ。
 姉の想いを踏みにじり、自分の気持ちだけを優先して。

 結果は。

 偽りだらけの恋人関係が生まれただけだった。

 最初は、なんて温かなものなのだろう、と、自分のやってしまったことを忘れててただ現況に身を任せ、温もりを得るだけだった。
 こんな時間があるのだ、と夢見ごこちで毎日を過ごしていた。
 それは、大切な時間だった。

 だけど。
 岡崎くんと恋人という関係になって、彼は姉のことを好きなんだ、ということを理解するようになっていった。

 それは、単なるクラスメイトとしてでは決してわからなかったこと、恋人だから知りえたことだった。
 そしてそれが、痛みとなって私の心を突き抜けた。

 私が彼と付き合ってしまった罰だった。

 それでも、ひたすら私のほうに気持ちが動くよう、自分とは思えないほど積極的に行動していた。
 ひたすらに、ひたむきに。

 でも。

 私が姉に、岡崎くんとキスをした、ということを告げたとき、姉の表情に一瞬の影が差したのを見てしまった。
 姉が振り切れるようした、私の浅はかな言動。
 それが、かえって私の心に傷となって返ってきた。

 姉の悲しみにくれた表情。
 頭から離れなくなった。



 もう、私は気づいていた。
 これ以上は、無理なんだと。
 岡崎くんとの恋人という関係は、もはや無理なんだと。

 いつもは気丈な姉の苦しむところを見たくなかった。
 岡崎くんが苦悩するところも見たくなかった。

 私は、決心していた。
 終止符を打つことを。



 きっかけは、すぐに訪れていた。
 岡崎くんが、自らの胸の内を告白してくれた。

 それはもうわかりきったことではあった。
 彼が好きなのは、姉なんだ。
 強く、実感した。

 だから私は、動いた。
 最後のキス、別れの挨拶。
 ひたむきに想う少女を演じて、彼から急いで離れた。



 その夜。
 姉に促した。

 お姉ちゃんも岡崎くんのことが好きなんだよね?だったら、ちゃんと決着をつけないと。 振られたら、一緒に泣いてあげるから。

 それが、私にできる唯一の罪滅ぼしだった。



 姉はようやく私に、そして姉自身に偽りつづけていた心を岡崎くんにぶつけるため、髪を切るという大胆な行動に出た。
 姉らしい行動だった。
 そして。

 姉と岡崎くんは結ばれるべくして結ばれた。

 偽りだらけの関係も、これで終わったのだ。



 あとは、自分自身に整理をつけるだけだった。
 だから、岡崎くんが私に謝りにきたとき、決して許そうとはしなかった。
 許すこと。それがあの確かに存在した温もりある時間を否定することにつながると想ったから。
 大事な思い出を、失いたくはなかったから。

 だから、ありがとう、といった。
 それは、謝罪の意味もこめた、お礼だった。

 そして、私と岡崎くんは、友達、という関係に戻った。
 新しい、関係だった。



 この2人の行く先に、いろんなことが待ち受けているだろう。
 その中には、超えなければならない壁も含まれていることだろう。
 そのときは。
 私が姉や岡崎くんにもらったものの恩返しをするために。
 2人を心から応援することにしよう。

 それが、妹であり、友達という関係なのだから。