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CLANNAD/その色は

「僕さあ、思うんだよねー」

 放課後。クラスメイトたちが各々の自由時間に向けて支度をする中、春原はこんなことを言い出した。

「人には一人一人色があるんだよ」
「春原……お前でも熱、出すんだな」
「それって僕が馬鹿だから熱出さないって言いたいんですかねえ!? それ以前に人を熱病にやられた人間みたいに言わないでくれますかねっ!!」

 春原の二段ツッコミはさておき。
 人の色。きっとあれだ。熱い男は赤で、純粋な女の子は白だとかいう、イメージとしての色のことだろう。他の奴が言うなら真面目なテーマになるのだろうが、そこは春原。期待を裏切らないことだろう。
 間違いない。
 智代からは、本日委員会があるので遅くなる、との連絡を受けている。暇つぶしにはばっちりだ。

「はあ……で、その色が何だよ」
「そうそう、人にはそれぞれ色があるんだよ。例えば……活動的な杏だったら水色とか、消極的だけど何気に大胆な委員長だったら黒とか」
「……委員長が黒だとか言ったら姉の必殺辞書が飛んでくるぞ?」
「大丈夫、あの姉妹は委員会で既にいないし、水色と黒は僕自ら確認した」
「確認……?」

 人の色なんていうイメージ的なものをどうやって確認するというのだろうか。春原という生命体はいつだって摩訶不思議だ。どうせ、碌なことじゃないのはわかっているのだが。

「で、だよ。まだ僕が確認できてないのが……智代なんだ」
「ほほう……」
「僕の想像だと、灰色とか黒とか黄色とか、危険色・警戒色の類だと思うんだけど……なんせあいつは隙がない。杏みたいなアマチュアのトップじゃなくて、プロのトップなんだ。だから杏は確認できても、智代は確認できてないんだ……!」

 握り拳を作りつつ、春原。未成年の主張を繰り広げるかのごとく熱弁をふるう。
 ……どうも、話が掴めない。俺と春原の言う色は、全く別のモノということか……?

「で、春原、お前何が言いたい?」
「岡崎……智代ちゃんの色はいったい何色なんだ!!? 恋人であるお前なら知ってるずだろ!? 僕はそれが知りたい!!」

 手を組み、神に祈るかのようにこちらににじり寄ってくる。気色悪いのでとりあえず蹴りを一発。

「ぐへっ……お、岡崎、いきなり蹴るなっ!」
「いや、気色悪かったからつい」
「それ滅茶苦茶失礼ですよねえ!!」
「気のせいだ。で、智代の色だろ? うーん……」

 思案。智代の色はなんでしょう、と聞かれてもすぐには答えられない。そりゃあいつとは恋人の関係だし、智代をそばで一番見てるのは俺だという自負もあるけど、色はなんだと聞かれたら困るのである。

「白、かなあ……」

 脳裏に、エプロン姿で晩飯を作ってくれる智代の姿が浮かんだ。
 ……うむ、きっと白だ。あれはまるで天使のような姿。
 間違いない。
 ところが、どうやら春原はこの答えが不満のようだった。

「えー白ぉ? 似合わない似合わない」
「お前、それ危機的状況を作りかねないからな」
「だから今日は委員会だって。でも智代ちゃんの色が白ってのは納得いかないな」
「なら自分で確かめろよ……」

 口を衝いて出たこの言葉に春原が著しく反応。

「お、いいんだな? 確認、しちゃうよ?」

 ふふんと例の意味深な笑みを見せる。

「いや、それが確認できるものならな……」
「彼氏のお墨付きを貰ったんだ。確認させてくれるさ!」
「はあ……」

 もう何が何やら。正直春原に主導権を握られているのはいただけないが、下手に動いてコイツに馬鹿にさせるよりかはましである。ただ、その確認とやらには俺も立ち会っとかないと相当まずいなあ、という気はびしびし感じているのだが。

 そうこうしていると教室に委員長が戻ってきた。どうやら委員会が終わったようだ。

「よし、確認しに行くぞ!」
「あ、ああ……」

 いきり立つ春原を抑えつつ、智代のいるであろう教室へ向かう。
 教室を出る際、ふと気になって委員長にこんなことを尋ねてみる。

「なあ委員長、委員長の色は黒なのか?」
「え、あ、は、はい、ってなをえあうひふみへ!!??」

 ……壊れた。
 顔を真っ赤にさせて、意味不明の言語を高速詠唱している。一頻り唱え終わったところで、ボンっという音とともに委員長は椅子に座り込み、放心状態となってしまった。

「……メガンテ?」

 阿呆なことを呟きつつ、なにか、引っ掛かりを覚える。
 廊下に出てみると春原は既に階段間際だった。慌てて追おうとしたところで、今度は杏と出くわす。

「なあ杏、お前の色は水色か!?」
「へっ?」

 きょとんとする杏。だが次の瞬間にはプルプル震えだし、妹と同じように顔を真っ赤にさせ、手には……

「って、待てッ! なんで広辞苑握り締めて第一種戦闘態勢なんだよっ!!」
「問答、無用っ!」

 何かわけわかんないけど相当やばいっ!
 おまけに今は盾となる奴がそばにいないっ!

 というわけで逃走。春原を盾にするため、奴が向かったであろう智代の教室へと向かう。後ろを見ると、杏がまさに般若のごとき表情で追っかけてくる。

 ……いや、まじで怖いし!

 全力疾走。廊下を駆け巡り、階段を二段飛ばしで下りて、スピードを落とさずに直角カーブを曲がる。

 ……いたっ!!
 前方に春原の背中、そして智代の顔。
 春原の声が聞こえる。

「さあ智代ちゃん、確認させてもらおうか……」
「な、何をだ……?」
「決まってるじゃないか……君の色だよ」
「色?」
「そう、色だ。岡崎の許可も貰った。さあ、見せてもらうよ!」

 あいつらとの距離が縮まる間に聞こえたのがこんな会話。後ろからは激昂した杏。教室では壊れた委員長。
 ……まさか、あいつの言う色ってのは……

「朋也が許可したのなら仕方ないな。何の色を確認するんだ?」
「無論……スカートの中身だぁぁ!!」

 やっぱりかよっ!

 飢えた獣のように飛び掛る春原。智代は俺が許可を出した、ということで戸惑っているのか動きが鈍い。
 ……まずいっ、このままだと俺しか見ることの許されない智代の神秘が……っ!

 ふと、後ろからの殺気を思い出す。
 いるじゃないか、最強の狙撃手が。

「杏! お前の下着を覗いたのは春原だっ! さっき俺に得意げに語ってたぞ!」
「ぬぁんですってぇ!!」
「投げろ! 手にしたブツを!」
「オッケーッ!!」

 首を横に大きく傾ける。
 刹那、俺の頬の横二センチを高速で物体(広辞苑)が飛んでいく。

「ふげっ!!?」

 見事ターゲットに命中。春原は盛大によろめく。

「智代! 俺はそんな許可出してない! 馬鹿に止めをさせ!」
「わかった。春原……」

 ゴゴゴゴゴと智代の周りの空気が音を立てる。
 ミリタリーパワー、マックス。

「死んで変態じみた脳味噌を洗ってこいっ!!」

 智代の脚が高く上がる。そして、未だよろめく春原の頭へ、まっすぐに振り下ろされる。

 ズドンッ!!

「み、見逃した……ゆ、唯一の、チャンス、が……かはっ」

 その言葉と赤い吐血を残して、春原は見事昇天した。
 少し離れた場所にいた俺はというと、智代の踵落としの際にしっかりとソレを目撃してしまった。

「……ほら見ろ。やっぱり俺が合ってるじゃないか」

 ……彼女のスカートの中身は、見慣れた純白のものだった、ということを。